脳卒中後痙性麻痺患者の歩行持久力における足関節背屈力の寄与

Shamay S. Christina W. Hui-Chan: Contribution of Ankle Dorsiflexor Strength to Walking Endurance in People With Spastic Hemiplegia After Stroke. Arch Phys Med Rehabil 2012; 93: 1046-1051.

PubMed PMID:22440486

  • No.1405-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年5月1日

【論文の概要】

背景

 現在、6分間歩行テスト(6MWT)は脳卒中患者の歩行持久力の測定として広く用いられている。また、脳卒中患者の歩行における麻痺側足底屈筋力の重要性は広く立証されているが、麻痺側足背屈筋の関与は報告されていない。

目的

 本研究の目的は、歩行持久力において足背屈筋、足底屈筋、および足底屈筋の痙縮の関連、麻痺側足底屈筋が歩行に独立寄与するか、およびその数量化を検証することである。

方法

  対象は成人の脳卒中後痙性麻痺患者で、AFO未装着で杖歩行10m可能、composite spasticity scale(CSS)スコア10点以上、他動足背屈角度が最低10°ある者とした。対象者の情報として、年齢、性別、麻痺側、BMI、罹患期間の収集を行った。足底屈筋の痙縮はCSSを用い評価し、足背屈筋と足底屈筋の最大随意収縮中のピークトルクはオリジナルのロードセルを用いて記録した。歩行持久力は6MWT距離とした。テスト順序はランダムに実施し、すべての実験プロトコールの級内相関係数は0.69~0.99であった。
  記述統計学を用い、データ分析はコルモゴロフ‐スミルノフ検定を用いた。6MWT距離との関係はピアソン相関係数あるいはスピアマンの順位相関係数を用い、有意水準は.05とした。

結果

 被験者62名の内訳は、男性51名・女性11名、平均年齢±標準偏差は57.4±7.8歳、平均BMIは25.0±3.1kg/m2であった。左片麻痺43名、右片麻痺19名で、平均罹患期間は5.2±3.7年であった。平均CSS得点は12.2±1.7点で、すべての被験者の麻痺側足底屈筋の痙縮が中等度・重症であることを意味した。
 6MWT距離は麻痺側足背屈筋の筋力との有意な正の相関を認め(r=.793,P竕、.000)、また麻痺側足底屈筋の筋力との有意な正の相関を認めた(r=.349,P=.005)。
  従属変数を6分間歩行距離とした多重線形回帰の結果、年齢、BMI、足底屈筋の痙縮、非麻痺側足背屈筋力および足底屈筋力では決定係数R2は4.9%であるが、相対的に強い因果的説明力があるかを決定係数の増分法によって調べると、麻痺側足底屈筋力を加えた際の決定係数R2の増分説明力は11.3%になった。これに麻痺側足背屈筋力を追加すると決定係数R2の増分説明力は48.8%となり、麻痺側足背屈筋の説明変数としての重要性が明らかになった。すべての説明変数の中で麻痺側足背屈筋力は6MWT距離を決定する最も有効な因子であった。

考察

 本研究結果は、足背屈筋力が歩行速度と対称性を改善するための重要な要因であることに加え、歩行持久力の単独での決定因子になり得ることを示唆した。
  脳卒中後の6MWTでの歩行持久力の低下はすでに報告されており、健常成人の40%程度としている。
  麻痺側の足背屈筋力と底屈筋力の低下は報告されているが、この原因は麻痺側下肢の主働筋の運動中の運動単位の活性化の減少、運動単位の減少、主働筋の発火割合の減少、または拮抗筋収縮の増加が考えられる。
  多重線形回帰解析の結果により足背屈筋力が6MWT距離の予測に最も有効であることが明らかにされた。足背屈筋の脆弱性は遊脚期の不十分な足部クリアランスや踵接地後の重心移動中に遠心性収縮が不十分となり、それによる歩行速度の低下を生じ、また、足底屈筋に痙縮があれば、遊脚期に強力な足背屈筋力、股・膝屈曲が必要となり、エネルギー消費が増加し、歩行持久力は低下する。本研究でも麻痺側足背屈筋力と歩行速度(r=.727, P竕、.000)。歩行持久力(r=.793, P≦.000)に有意な相関関係があった。
  しかし一方、底屈筋の痙縮は6MWT距離に相関せず(r=‐.062, P=.635)、歩行速度にも相関しなかった(r=‐.178, P=.158)が、この結果は先行研究との測定方法の違いから生じた可能性がある。

【解説】

 脳卒中片麻痺患者の歩行において足底屈筋の重要性を示す報告は多く、足底屈筋力と歩行速度(相関係数=0.83-0.845)1)、足底屈筋力とTimed Up & Go(相関係数=0.86)2)で高い相関があることを示している。本研究では、麻痺側足背屈筋力に着目し、歩行持久力に関与しているか検証した結果、他のパラメータと比較し、最も影響がある因子であることを明らかにした。しかし、歩行速度を決定する因子として足背屈筋に比べ足底屈筋が重要であるとの報告1)もあり、足底屈筋は歩行推進力であり、足背屈筋は遊脚期の足部クリアランスや踵接地後の重心移動中に遠心性収縮で働き、対象患者により結果の相違が生じた可能性が考えられ、今後の研究に期待する。本研究により脳卒中片麻痺患者の歩行持久力改善に対してアプローチの選択が広がったことは有意義であると考える。

【参考文献】

  1. Kim CM, Eng JJ. The relationship of lower-extremity muscle torque to locomotor performance in people with stroke. Phys Ther 2003;83:49-57.
  2. Ng SS, Hui-Chan CW. The timed up & go test: its reliability and association with lower-limb impairments and locomotor capacities in people with chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil 2005;86: 1641-7.

2014年05月01日掲載

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