脳性麻痺児におけるFive-times-sit-to-stand testの信頼性と併存的妥当性

Kumban W, Amatachaya S, Emasithi A, Siritaratiwat W.Five-times-sit-to-stand test in children with cerebral palsy: reliability and concurrent validity.NeuroRehabilitation. 2013;32(1):9-15.

PubMed PMID:23422454

  • No.1408-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年8月1日

【論文の概要】

背景

 立ち座りの運動は、子どもの発達を診ていく上で重要な指標の一つであり、日常生活の自立や移動能力の発達において最も重要な要素の一つである。立ち座りのテストは、過去に機能的な下肢筋力の評価として行われてきた。繰り返しの立ち座りのテストは下肢筋力やバランス能力の評価として行われている。Five-times-sit-to-stand test(FTSST)は、できるだけ早く5回立ち座りを行うことで立ち座りの能力を評価する評価法の一つであり、高齢者や脳卒中患者、前庭機能障害、パーキンソン病患者などを対象に行われてきた。脳性麻痺患者にとってもFTSSTは、下肢の機能的な筋力やバランス能力を評価する信頼性の高い評価方法である。しかし、脳性麻痺児のFTSSTの信頼性の報告は、少ないのが現状である。

目的

 脳性麻痺患者にとって、臨床的に有用で妥当性・信頼性のある評価として、繰り返しの立ち座り運動の評価が必要である。本研究の目的は、脳性麻痺児におけるFTSSTの検者内信頼性と検者間信頼性を明らかにすること、FTSSTと標準的なバランス評価法との相関関係を調査することとした。

方法

 対象はGross Motor Function Classification System(GMFCS)にてレベルⅠが9名、レベルⅡが12名、レベルⅢが12名の計33名(痙直型両麻痺16名、痙直型片麻痺4名、アテトーゼ型8名、失調型5名)だった。男女比は男16名、女17名、平均年齢は13.8±2.8歳(6~18歳)だった。
 FTSSTの測定は、高さを調整した椅子で、大腿の半分を座面に接地させた。足底が床面に接地した状態で股関節を約90度屈曲位とし、膝関節中心から10cm後方にくるぶしがくるように位置した。測定の開始は検査者の合図とし、測定の終了は対象者の背中が椅子の背もたれに接地した時とした。対象者が一人で立ち座りを行えない場合は、介助者が両上肢を持ち、測定を行った。測定は3回行い、課題間には1分間の休憩を設けた。分析には3回の平均値を使用し、時間が短い方が機能的能力が高いとした。
 FTSSTにおける検者内信頼性(ICC3,2)と検者間信頼性(ICC2,2)を検証した。また、FTSST とTimed up and go test (TUG)、Berg balance scale(BBS)とのPearsonの相関関係を調査した。

結果および考察

 FTSSTにおける検者内信頼性は0.91、検者間信頼性は0.88と高い値が得られた。
 FTSSTとTUGとの相関関係は、r = 0.552(P < 0.01)で、BBSとの相関関係はr =-0.561(P < 0.01)で穏やかな相関関係を示した。
 FTSSTをGMFCSレベル別にみると、レベルⅠでは11.68秒、レベルⅡでは17.64秒、レベルⅢでは29.15秒だった。これはWangらによる先行研究の値と比べ、レベルⅠの値は同等だった1)。レベルⅡとⅢでは本研究の方が値が良かった。これはレベルⅢにおいて、測定時に上肢の介助を行った者がいたことが要因の一つと考えられる。また、脳性麻痺児の筋力はGMFCSレベルが下がるごとに有意に筋力が低下すると言われていることから、膝関節伸展筋力や足関節底屈筋力などが影響し、GMFCSレベルごとにFTSSTの値が遅くなったものと考えられる。  軽度から中度の脳性麻痺児で機能的なバランス能力テストと相関したことから、脳性麻痺患者においてFTSSTが有用的な評価法であることが示唆された。

【解説】

 FTSSTは下肢筋力とバランス機能を反映していると考えられている。脳性麻痺児におけるFTSSTでは、重りを背負っての立ち上がり運動の1RMや股関節屈曲・伸展・外転筋力、膝関節や足関節の筋力と相関関係があると報告されている1)。また、総合的な移動能力を評価するGross Motor Function Measureの項目D(立位)と項目E(歩行・走行・ジャンプ)や歩行速度、Physiological Cost Indexとの間にも相関関係があった1)
 過去に脳性麻痺児に対してTUGやBBSの測定は簡便で信頼性や妥当性が高い評価法として検証されていたが、それぞれの評価法間の相関関係は検証されてこなかった2)。本論文は、バランス機能に焦点をあて、既存のバランス評価との関係を明らかにしている。また、脳性麻痺児におけるFTSSTの高い検者内信頼性と検者間信頼性を示したことから、今後は介入研究などによるパラメータの選択に用いられる可能性がある。TUGには歩行と方向転換の機能が含まれており、BBSには静止立位と動的立位の姿勢制御能力が反映されている。それに対し、FTSSTはTUGとBBSの中間の要素を含んでいる。これら評価法の特徴を理解したうえで、臨床や研究での使用することが重要と考える。

【参考文献】

  1. Wang TH, Liao HF, Peng YC. Reliability and validity of the five-repetition sit-to-stand test for children with cerebral palsy. Clin Rehabil 26(7):664-671. 2012.
  2. Gan, SM, Tung, LC, Tang, YH, Wang, CH. Psychometric properties of functional balance assessment in children with cerebral palsy. Neurorehabilitation and Neural Repair, 22(6), 745-753. 2008.

2014年08月01日掲載

PAGETOP