人工膝関節単顆置換術(UKA)施行患者における歩行の初期接地時の非対称な膝関節荷重

Pazit Levinger ,Kate E.Webster,Julian Feller:Asymmetric knee loading at heel contact during walking in patients with unilateral knee replacement.The Knee15 (2008) 456-460

PubMed PMID:18640041

  • No.1409-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年9月1日

【論文の概要】

背景

 初期接地時の膝関節にかかる接触力の増加は変形性膝関節症(以下、膝OA)を進展させるものである。先行研究では、初期接地時の下肢は衝撃が生じながら運動連鎖が働くとされ、過度の衝撃力は膝OA等の病態や原因として示されている。また、人工関節置換術後の非対称的歩容への変化は術側の負荷を減らすための無意識的な戦略であるとされており、UKA施行患者の非対称な関節負荷の結果として反対側の膝OAの進展がみられたという報告もある。しかし、UKA患者においての初期接地時の非対称的な関節負荷を調べた研究はない。UKA後の歩容を変えるためには、非対称的な初期接地時の膝関節負荷を示すことによりUKA後の反対側の膝OAの発症率を導くことが必要であり、UKA前後の反対側の膝OA予防のための理学療法の一助となるであろう。
 本研究の目的は、UKA術後約12ヶ月フォローした患者を対象として初期接地時における術側と反対側の床反力、運動学的数値とモーメントを比較することとした。下肢間における空間的なパラメータも調査した。UKA後の患者は術側と非術側において非対称的な関節負荷を示すことを仮説とした。

方法

  本研究は横断的調査とした。対象は19人(男性;11人、女性;8人)、年齢;71±7.3歳,体重;83.5±11.8kg、 身長;168.8±9.3cm、BMI:29.2±2.4であった。総て人工関節置換術後(8人がTKA、11人がUKA)で、膝OAの手術は、診断から12-14ヶ月の期間に同じ整形外科医が行い、プロトコルも同様であった。除外基準は、全身疾患のコントロールができていない者、重篤な膝関節疾患、歩行に影響を与えると考えられる中枢疾患や整形外科疾患を有する者とした。評価は、米国膝学会膝スコアを用い、反対側の膝関節には疼痛がなく全可動域が確保されていることを確認した。米国膝学会膝スコアは、臨床的なものと疼痛に関するもので構成され、0-100点で表される。臨床部門は50点で可動域や筋力やstability、疼痛は、疼痛の程度であり50点満点で表す。術側の大腿四頭筋の筋力は整形外科医がOxford muscle grading scaleを用いた。
 歩行課題は、裸足、快適速度で10mとし、初期接地時における矢状面上の股関節、膝関節、足関節の運動学的・運動力学的データを記録した。使用機器は6台のカメラ(サンプリング数50Hz)付きの三次元動作解析装置VICON512;Oxford Metricsを使用し、25mmの反射マーカを15個貼付した。床反力はKistler force plate(400Hz)で計測した。データ処理は、初期接地を10-20msの間と定義し、関節角度・モーメントはPlug-in-gaitモデルを用いて算出、床反力・モーメントは体重で正規化した。VICONから歩行速度、ケイデンス、歩幅、step time、単脚・両脚支持時間を術側・非術側ともに求めた。
 統計解析は、対応のあるt検定を術側と非術側で比較した(床反力とそれに関連する股関節、膝関節、足関節角度・モーメントと時間・空間的パラメータ;歩幅、step time、単脚・両脚支持時間)。有意水準はp<0.05とした。

結果

 膝スコアは平均92±11.9点、臨床47.2±3.8点、疼痛44.4±9.7点であった。9人は疼痛なし、8人はmild pain、2人はmoderate painであった。大腿四頭筋の筋力はfair8人、good 11人、poorは0人であった。初期接地時の矢状面上の角度は有意な差がみられなかった。初期接地時の床反力は術側0.75±0.28BW、非術側0.90±0.21BWと有意に非術側が大きい値を示した。股関節伸展モーメント、膝関節屈曲モーメント、足関節背屈モーメントで非術側の方が有意に大きくなった。時間・空間的パラメータは、有意差はなかった。

考察

 関節角度に有意な差はみられなかったことから初期接地時における床反力の違いには関係がないことが推察される。空間的パラメータも差はみられなかった。関節モーメントに差はみられたことから、筋への要求仕事量が増加したと言え、小さな変化であるがそれが積み重なることで人工関節置換術後の膝関節への荷重負荷の非対称に繋がったのではないか。術側に体重をかけることに自信がない、疼痛が残存しているということも、術側への荷重負荷を減らしていたことに影響している可能性がある。これは膝痛と構造上の問題が術前からあり、術後も続いていることが示唆される。非対称な荷重負荷は術側下肢の疼痛や術前後で変化しない構造上の問題を避けるための戦略であるかどうかは不明である。床反力は下肢の退行性変化と関係があった。膝蓋大腿関節痛においても膝OAと同様の代償戦略をみることができた。大腿四頭筋の着地前の予測的筋活動は衝撃負荷を減らすメカニズムとして考えられている。また、大腿四頭筋の筋力低下は膝OA患者の衝撃負荷を増加させるという報告があるが、本研究では明らかにできなかった。
 人工関節置換術後の患者において、初期接地時に膝関節にかかる衝撃の強さは床反力やモーメントの値を算出することで臨床的に示され、これらの衝撃により膝OAの進展や発症のリスクに繋がっていると考えられる。

結論

 術側と非術側において初期接地時の荷重負荷を比較した。初期接地時の関節角度による影響は認められなかった。時間・空間的パラメータも下肢において特に差はみられなかった。関節モーメントの解析では、股関節・膝関節・足関節での初期接地時の衝撃力に有意な違いを示した。人工関節置換術後において非対称な膝関節への荷重負荷が臨床的に証明された。

【解説】

 本論文では、三次元動作解析装置と床反力計を用いて人工関節術後患者の歩行解析を行い、初期接地時での左右非対称な膝関節への荷重負荷を示した。本論文と同様に、下肢関節の矢状面における歩行解析は散見される。Sammuelら1) は人工膝関節全置換術のタイプによる違いを検討しており、膝関節屈曲角度・最大伸展モーメントがタイプによって異なることを示した。Sammuelら1)や本論文では下肢の機能に注目している。Katherineら2) は体幹機能を含めた研究を行い、脊柱起立筋や腹斜筋という姿勢保持筋の活動による姿勢の変化が膝関節のモーメントアームを決定していると報告している。すなわち、膝関節のモーメントを考慮する場合、体幹の分析も必要になると考えられ、関節角度・関節モーメントの他、関節パワーを分析することにより術側と非術側の詳細な解析ができると思われる。
 臨床ではバイオメカニクス的な要因と、評価とを組み合わせて考察する必要がある。今後、本論文やM.C.Liebensteiner3) の研究のように、理学療法評価とバイオメカニクス的な結果を示して提示していくことに期待したい。

【参考文献】

  1. Sammuel G Urwin et al:Gait analysis of fixed bearing and mobile bearing total knee prostheses during walking.Do mobile bearings offer functional advantages? The Knee21(2014);391-395
  2. Katherine et al.:Trunk muscle action compensates for reduced quadriceps force during walking after total knee arthroplasty.Gait&Posture38(2013);79-85
  3. M.C.Liebensteiner et al:Correlation between objective gait parameters and subjective score.The Knee15(2008):461-466

2014年09月01日掲載

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