腰椎のスタビライゼーションエクササイズにより短期間に改善が期待される腰痛患者を予測するための臨床予測指標:無作為化比較試験

Rabin A, Shashua A, Pizem K, Dickstein R, Dar G: A clinical prediction rule to identify patients with low back pain who are likely to experience short-term success following lumbar stabilization exercises: a randomized controlled validation study. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2014; 44: 6-B13.

PubMed PMID:24261926

  • No.1411-2
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2014年11月1日

【論文の概要】

背景

 腰痛に関するシステマティックレビューでは、理学療法の効果は限定的と報告されている。この原因の1つとして、腰痛に対する理学療法の効果を検討した研究では、様々な特性をもつ症例を1つの集団として分析していることが指摘されている。最近の研究では、臨床予測指標(clinical prediction rule, CPR)をもとに、症例の状態に応じた介入方法を選択することの重要性が指摘されている。
 本研究では、腰椎のスタビライゼーションエクササイズ(lumbar stabilization exercise, LSE)のCPRに着目した。Hicksらは、LSEが効果的な症例を予測するCPRを報告している。そのCPRは (1)40歳以下、(2) straight leg raiseの左右平均が91°以上、(3)腰椎運動の異常(aberrant lumbar movement)、(4)腹臥位腰椎不安定テスト(prone instability test)陽性の4項目で構成される。CPRを一般化するためには、前向き研究による検討が必要であるが、十分に検討されていない。

目的

 本研究の目的は、LSEにより短期間に改善が見込まれる腰痛患者を予測するためのCPRの妥当性を検証することと、より予測精度の高いCPRについて検討することである。

方法

 本研究では、腰痛に対する理学療法で広く用いられるマニュアルセラピー(manual therapy, MT)をコントロール介入として、LSEのCPRの妥当性について検討を行った。我々はLSEを受けた群では、CPR陽性の症例で改善が大きいと予測した。また、CPR陽性の症例ではLSEよりもMTの方が、治療成績が良いと予測した。

対象

 18から60歳の腰痛患者で、modified Oswestry Disability Index (MODI)が24%以上の105名とした。介入前にCPRで対象者を分類し、無作為にLSE実施群とMT実施群の2つに分けた。LSE群はCPR陽性18名、CPR陰性30名の計48名、MT群はCPR陽性22名、CPR陰性35名の計57名であった。

介入

 介入期間は8週間、介入回数は11回とした。介入は経験が4から12年の11名の理学療法士が実施した。LSEはHicksらが報告しているものを一部修正して行った。MTについては、腰椎に対する徒手的操作に加え、下肢の関節可動域運動およびストレッチを実施した。

アウトカム評価

 8週間の介入前後に評価を実施した。アウトカムの指標は腰痛に伴う活動制限と疼痛とし、それぞれMODI とnumeric pain rating scale (NPRS)を用いて評価した。

統計学的検定

 介入の種類とCPRを要因、介入前のMODIを共変量とした共分散分析を用い、介入後のMODIとNRPSを比較した。また、LSEを受けたCPR陽性群とCPR陰性群の二群間比較、CPRが陽性でLSEを受けた群とMTを受けた群の二群間比較も実施した。

結果

 MODIについては、介入の種類とCPRによる有意な交互作用は認めなった(P=0.17)。しかしながら、LSEを実施した群において、CPR陽性の症例では、CPR陰性の症例よりも介入後の活動制限が軽度だった(P=0.02)。また、CPR陽性の症例では、MTよりもLSEを受けた方が、有意に活動制限が改善した(P=0.03)。さらに、介入の種類とCPRについても有意な効果も認められた。MTよりもLSEを受けた群の方が、介入後の活動制限が軽度だった(P=0.05)。また介入の種類にかかわらず、CPR陽性の症例では、CPR陰性の症例よりも最終時の活動制限が有意に低い値を示した(P=0.04)。
 CPRを“腰椎運動の異常”と“腹臥位腰椎不安定テスト陽性”の2項目にしたmodified CPR(mCPR)で対象者を再分類したところ、MODIにおいて、介入の種類とmCPRによる有意な交互作用を認めた(P=0.02)。LSE群においては、mCPR陽性の症例では、mCPR陰性の症例よりもMODIが有意に低い値を示した(P=0.02)。また、mCPR陽性の症例では、MT よりもLSEを受けた群の活動制限が有意に改善した(P=0.005)。
 一方NPRSについては、CPR、mCPRのどちらで分類しても、有意な結果を示さなかった。

考察

 先行研究で報告されたLSE に対するCPRの妥当性を示すことはできなかった。一方、条件を2項目に修正したmCPRでは、LSEが効果的な症例の予測が可能であった。先行研究と異なる結果が示された原因としては、対象者のMODIや罹患期間が異なることが考えられた。
 “腰椎運動の異常”と“腹臥位腰椎不安定テスト”が陽性である腰痛患者では、腰椎の中間域での運動制御が困難なことや、多裂筋の活動が減少することが報告されている。これらの報告を踏まえると、mCPRはバイオメカニクスの観点からも妥当性が高いと考えられた。
 しかし、本論文のmCPRについては後方視的な検討により導出されたものであり、今後さらに検討を進める必要がある。

【解説】

 本論文は、LSEが効果的な腰痛患者を予測するためのCPRの妥当性について検討したものである。本研究の結果では、先行研究のCPRよりもmCPRの方が、予測精度が高かった。先行研究のCPRによる予測では、有意な交互作用がなく、CPR陰性の症例よりもCPR陽性の症例の方が、介入後のMODIが高かったことから、腰痛の重症度による分類に類似したものと考えられる。これはCPRの指標の1つである“40歳以下”の影響によるものと考えられる。
 一方、mCPRによる予測では、有意な交互作用が認められており、妥当性が示されている。しかし本論文のmCPRは後方視的な検討であるため、一般化するためには、前向き研究を含めた検証が必要と考えられる。
 非特異的腰痛を対象としたCPRに関するシステマティックレビューにおいては、未だ腰痛に対するCPRの有効性は明確ではないと報告されている1,2)。腰痛に対する理学療法に限らず、症例の状態に応じた適切な介入方法の選択は極めて重要である3)。CPRは様々な疾患に対する理学療法を一般化するための基礎となるものであリ、今後さらなるデータの蓄積が期待される。

【参考文献】

  1. Patel S, Friede T, et al.: Systematic review of randomized controlled trials of clinical prediction rules for physical therapy in low back pain. Spine. 2013; 38: 762-769.
  2. Stanton TR, Hancock MJ, et al.: Critical appraisal of clinical prediction rules that aim to optimize treatment selection for musculoskeletal conditions. Phys Ther. 2010; 90 :843-854.
  3. Currier LL, Froehlich PJ, et al.: Development of a clinical prediction rule to identify patients with knee pain and clinical evidence of knee osteoarthritis who demonstrate a favorable short-term response to hip mobilization. Phys Ther. 2007; 87: 1106-1119.

2014年11月01日掲載

PAGETOP