人工股関節全置換術後患者の異なった時期の術後歩行能力に影響する術前予測因子

Kamimura A, Sakakima H, Tsutsumi F, Sunahara N:Preoperative predictors of ambulation ability at different time points after total hip arthroplasty in patients with osteoarthritis.Rehabil Res Pract. 2014;2014:861268. doi: 10.1155/2014/861268. Epub 2014 Aug 10.

PubMed PMID:25180097

  • No.1412-2
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2014年12月3日

【論文の概要】

背景

 変形性股関節症(股OA)患者に対する人工股関節全置換術(THA)は疼痛の軽減、股関節の可動域の改善、筋力や安定性の改善のために一般的に施行される手術である。THA術前の身体機能、疼痛、内科的合併症など種々の要因が術後の活動能力や歩行能力の術前予測因子として報告されている。しかしながら、これまでの研究はTHA術後の一時期における術前予測因子を明らかにしており、術前予測因子がTHA術後の時期によって変化する可能性については検討されていない。また、THA術後の異なった時期における歩行能力と術前下肢筋力との関係はよく分かっていない。

目的

 本研究の目的はTHA術後の下肢筋力、疼痛、歩行能力の回復過程を評価し、術後3週、4ヶ月、7ヶ月後の歩行能力の術前予測因子を明らかにし、術後歩行能力に影響する術前予測因子のカットオフ値をReceiver operating characteristic (ROC) 曲線を用いて算出することである。

方法

 対象は股OAにより初回一側THA術(後方侵入法)を施行された女性48名(年齢:67.6±7.9歳、BMI: 25.2±3.8)とした。すべての患者は関節可動域練習、筋力強化、基本動作練習、ADL練習を含んだ術後理学療法を3週間施行され退院となった。術前、術3週後(退院時)、4、7ヶ月後に両側の股関節外転筋力、股関節伸展筋力、膝伸展筋力をHand-held dynamometer (HHD)を用いて測定した。術後4、7ヶ月の評価は外来通院時に行った。筋トルクはNm/kgで算出した。股関節外転筋力測定時の疼痛をVisual analog scale (VAS)を用いて評価した。歩行能力としてTimed up and go(TUG)testを評価した。TUG testスコアにより13.5秒以上を歩行能力良好群、13.5秒未満を歩行能力不良群に分類した。
 TUG testスコアと相関関係の認められた各パラメーターと、年齢、BMIをステップワイズ重回帰分析により解析した。さらに歩行良好群と不良群のカットオフ値をROC曲線によって算出した。

結果

 股関節伸展、外転筋力は術後3週で術前値より有意に改善した。膝伸筋力は術後4ヶ月に術前値より有意に改善した。股、膝筋力は7ヶ月後まで非術側と比較して有意に低値を示した。VASは術後3週で有意に低下し、4ヶ月後以降疼痛の訴えはなくなった。TUG test スコアは4ヶ月後以降術前と比較して有意に改善した。
 TUG test スコアに最も影響する術前因子として術後3週では膝伸展筋力(β=-0.379, R2=0.409)、4ヶ月後には股外転筋力(β=-0.572, R2=0.570)、7ヶ月後には年齢(β=-0.758, R2=0.561)が選択された。歩行能力良好群、不良群を分ける術前因子のカットオフ値は膝伸展筋力0.56Nm/Kg、股外転筋力0.24Nm/kg、年齢73歳であった。

考察

 THA術後早期に筋力、疼痛、歩行能力は良好に改善するが、下肢筋力の改善は術後7ヶ月が経過しても非術側値まで回復しておらず、下肢筋力の回復には長期間を要することが示唆された。
 THA術後の歩行能力に対する術前予測因子は術後早期より、膝伸展筋力、股外転筋力、年齢と時期によって異なることが示唆された。膝伸筋に関しては股関節痛の影響が少なく術前より積極的に理学療法介入が可能であり、特にカットオフ値より低値の患者には術後歩行能力獲得のために積極的に術前理学療法を行う必要がある。また、術前から術後理学療法に対する患者指導にも今回の結果は有効であると考えられる。
 本研究の対象者の術前下肢筋力は先行研究と比較して低値であった。また、Nankakuらは術前TUG testスコアが10秒未満の患者はTHA術後6ヶ月で歩行補助具なしで歩行が可能であったと報告している。今回の対象患者は術前TUG testスコアが10秒未満の患者はほとんどおらず、重度の股OA患者であると言える。

【解説】

 これまで多くの研究が術前の運動機能がTHA術後の機能的帰結に影響を及ぼすことを報告しているが、それは一時期におけるものであり、本研究は重度股OAによりTHAを施行された患者の術後歩行能力に及ぼす術前予測因子が術後の時期によって異なり、術後良好な歩行能力を獲得するための術前因子のカットオフ値を示した。本研究の結果は術前の理学療法介入や患者への術後理学療法に対する指導の良い指標になると考えられる。
 本研究では術後7ヶ月では年齢が歩行能力にもっとも影響する因子として抽出されており、THA手術を行うには年齢も考慮する必要がある。また、THA術後には股関節外転筋力の低下は大きな合併症として考えられている。本研究では術後7ヶ月までの評価を行っているが、今後長期的な観察を期待する。 

【参考文献】

  1. Nankaku M, Tsuboyama T, et al.: Preoperative prediction of ambulatory status at 6 months after total hip arthroplasty. Phys Ther. 2013; 93: 88-93.
  2. Nankaku M, Tsuboyama T, et al.: Prediction of ambulation ability following total hip arthroplasty. J Orthop Sci. 2011; 16: 359-363.
  3. Holstege MS, Lindeboom R, et al.: Preoperative quadriceps strength as a predictor for short-term functional outcome after total hip replacement. Arch Phys Med Rehabil. 2011; 92: 236-241.

2014年12月03日掲載

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