地域在住高齢者の長期的な3つの複合的運動が身体活動と転倒関連心理的結果に与える効果についてーランダム試験―

Freiberger E, Häberle L, Spirduso WW, Zijlstra GA:Long-Term Effects of Three Multicomponent Exercise Interventions on Physical Performance and Fall-Related Psychological Outcomes in Community-Dwelling Older Adults: A Randomized Controlled Trial.J Am Geriatr Soc. 2012 Mar;60(3):437-46.

PubMed PMID:22324753

  • No.1503-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年3月2日

【論文の概要】

背景・目的

 高齢化社会を迎え、転倒に関連する事項が着目されてきている。転倒経験者や転倒に対して恐怖心をもっている高齢者は、再び転倒するリスクが年齢ともに高まる報告も先行研究よりされている。転倒に効果的な運動プログラムが出来れば健康に関連した治療や費用を減らす経済的な効果もある。いくつかのメタアナリス研究でも、複合的な身体活動は転倒のリスクを減らすとの結果が出ているが見解は一致していない。
 今回の研究で、長期的(24か月)な効果を身体活動、転倒に関連した心理的な面、転倒に着目して検討することにした。 

方法

 対象は、地域在住280名の70歳から90歳までの方を対象とした。無作為にⅰ)コントロール(非介入:CG)群、ⅱ)筋力強化とバランス練習介入(SBG)群、ⅲ)フィットネス(SBG群プラス耐久練習:FG)群、ⅳ)多介入(筋力強化、バランス、転倒リスクの教育:MG)群の4つの群に振り分けた。これらの介入は、16週間1時間のセッション2回、計32回行った。評価は、介入前、介入6か月後・12か月後・24か月後にそれぞれ身体機能と心理面と評価した。身体機能面は、活動性としてtimed up go test(以下TUG)、バランス能力としてロンベルグ試験変法、下肢筋力評価として椅子からの立ち上がり試験、6mの歩行速度(通常歩行・最大歩行)を実施した。心理面は、perceived Consequences of Falling scale (CoF)とActivities-specific Balance Confidence(ABC)を用いて評価した。

結果

 研究介入の属性選択として、2,468人の地域在住高齢者(70歳以上)を対象とし、まず2,000人選出した。各1,000人ずつに分け、各168人、139人から返信をもらい、さらに評価と選出を行い153人、127人に絞った。その後、非介入群であるコントロール群:CG80名、筋力強化・バランス練習・転倒リスクへの教育への介入群:MG73名、筋力強化・バランス練習介入群:SBG63名、筋力強化・バランス練習・フィットネス介入群:FG64名へ無作為に分けた。その後、介入6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月と定期的に評価等行い、最終的にCG 52名、MG 58名、SBG 49名、FG 48名であった。属性やベースライン(介入時の評価数値)は最終終了者ではなく、介入時の初期人数で検討した。6か月、12ヶ月、24ヶ月の評価は、それぞれの評価時期の対象人数で検定を行った。
 属性は、平均年齢、男女比、教育歴、収入、独居率、服薬数、認知状態、転倒への恐怖心、過去半年の転倒歴、毎日の歩行歴(毎日歩くかどうか)の計10項目である。教育歴と転倒への恐怖心で若干のグループ間差があるが、比較的まとまった属性を各グループもっている。それぞれのグループの達成率は、グループ間に有意差なく高い参加率(介入率)を得られた。また、介入中も問題なく遂行できた。
 身体機能の総合的な結果では、CGに比較して介入群は良好な成績をあげたが、とくにSBGとFGが良好であった。介入6か月後の評価では、TUGで介入群が有意に良好な成績であった。12ヶ月、24ヶ月後もSBGやFGは、歩行速度や下肢筋力、バランス機能で良好な成績を修めた。MGは、特に秀でた良好な結果は得られなかった。FGが一番良好な成績であり、やはり筋力強化とバランス運動、フィットネスと身体活動に関与した効果が結果として表れた。
 心理面では、特に有意な差はみられなかった。介入中の転倒は、全体で297回報告され、各群ともに差異はなく、怪我を伴う転倒も各群ともに似たようなものであった。

考察

 今回の介入結果より、筋力強化やバランス練習は身体機能に有益に働き、身体活動の向上を促せるが、転倒に関連する心理的な面や実際の転倒歴には直接的な効果はみられなかった。その要因として、対象者の選択に問題があったかのではないかと考えられる。運動介入や心理面での介入で、より効果が得やすい属性を選択すべきであったし、また介入時間が不足していたのではないかと思われる。また、先行研究からも身体活動が向上したから転倒への恐怖心が少なくなることは裏付けされておらず、転倒への恐怖心を克服(緩和)するためには、より選択的な運動と教育が必要だと考えられる。今後、より詳細な対象者の選出と介入プログラムの改良が望まれる。

まとめ

 地域在住高齢者(70歳以上)を対象に、長期的(今回は24ヶ月)な多方面の介入効果でどの項目が身体活動や転倒関連因子に効果があるか検討した。介入手段としては、ⅰ)非介入、コントロール群、ⅱ)筋力強化とバランス練習介入群、ⅲ)筋力強化とバランス練習、フィットネス運動介入群、ⅳ)筋力強化とバランス練習に加え転倒リスクに関しての教育介入群の4群の介入時、介入6か月後、12ヶ月後、24ヶ月後の身体機能、認知機能、転倒歴について調査した。筋力強化とバランス練習介入群と筋力強化とバランス練習、フィットネス運動介入群は、活動性や歩行速度、下肢筋力やバランス機能で他の群と比較し良好な結果が得られた。筋力強化とバランス練習に加え転倒リスクに関しての教育を提供した群は、非介入群と比較してそれほど良好な成績はみられなかった(あまり差はなかった)。転倒に関連した認知機能面や介入中の転倒歴(転倒による損傷率も含め)は、どの群でも差はみられなかった。このことより、今回の筋力強化やバランス運動などは、身体機能の促進はするが、転倒に関連した認知機能や転倒自体の防止には寄与できないことがわかった。

【解説】

 予防理学療法の分野が確立し、健康増進や傷害予防とともに高い注目を浴びているのが「転倒」に関連した分野である。「転倒予防」というキーワードで検索すると様々な研究報告をみることができる。しかし、長期的な複数介入、母数が大きな研究、原著論文かつインパクトファクター3点以上の原著論文(この論文のIFは2013年で4.2である)は思った以上に少ない。このことより高齢者に関する転倒予防は、社会的な注目度の高さと反比例し、見解や方針が未だ議論レベルであることが推察できる。今回の介入研究でも、参加への反応率が15%(2,000名へ案内を出し、参加の意思表示の返信は307名であった、すなわち1693名が無関心を示した)であり、大規模研究の難しさを物語っている。しかし、その中で身体機能面でのアプローチも、簡易な筋力強化・バランス練習群と、より全身的な運動を要するフィットネス運動を追加した群、また運動ばかりではなく転倒への教育指導を介入した点は、転倒骨折予防教室開催の中での身体活動指導ばかりではなく教育指導を行っている点と類似しているのではないかと思われる。今回の結果では、結果的に転倒予防への効果は少なかったが、逆に解釈すれば、考察でも筆者らが述べているが改善の余地がたくさんあり、今後の良い検討材料になった。地域在住高齢者といえ、属性は幅広く、よりターゲットを絞ること、介入頻度の増加、集団に加え個別指導時間の追加、個別アプローチの細分化等を再考したら、新しい指標が得られるのではないかと思われる。

【参考文献】

  1. Brendon Stubbs, Simone Brefka, Michael D. Denkinger What Works to Prevent Falls in Community-Dwelling Older Adults? An Umbrella Review of Meta-analyses of Randomized Controlled Trials. Phys Ther. 95(2) 2015
  2. Sherrington C, Whitney JC, Lord SR et al. Effective exercise for the pre-vention of falls: A systematic review and meta-analysis. J Am Geriatr Soc 56 2008:2234–2243.
  3. Bula CJ, Monod S, Hoskovec C et al. Interventions aiming at balance con-fidence improvement in older adults: An updated review. Gerontology 57 2011: 276–286.

2015年03月02日掲載

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