末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)を持つ女性糖尿病患者の下肢動脈血流に対する電気刺激、ジアテルミー、運動の即時効果:無作為のクロスオーバートライアル

Guirro EC, Guirro RR, Dibai-Filho AV, Pascote SC, Rodrigues-Bigaton D:Immediate effects of electrical stimulation, diathermy, and physical exercise on lower limb arterial blood flow in diabetic women with peripheral arterial disease: a randomized crossover trial..J Manipulative Physiol Ther. 2015 Mar-Apr;38(3):195-202.

PubMed PMID:25620607

  • No.1506-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年6月1日

【論文の概要】

背景

 末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)は、動脈瘤、炎症、アテローム性動脈硬化症、血栓塞栓が要因で動脈の狭窄や閉塞により制限された状態である。55歳以上の20%に下肢動脈の危険性があり、ほとんどが無症候性である。糖尿病はアテローム性による末梢動脈疾患を進行させる主要な要因の一つである。システマティックレビューでは、末梢動脈疾患に対する治療は、運動療法、幹細胞治療、薬物療法、脈管再生に焦点があてられており、理学療法の治療に関する報告は少ない。物理療法の高電圧刺激(HVES)や短波ジアテルミー(CSWD)は血流を改善すると報告されているが、末梢動脈疾患に対する治療効果は報告されておらず、科学的な根拠に基づいた治療プロトコールが欠如している。

目的

 本研究の目的は高電圧刺激法、短波ジアテルミー、身体運動による末梢動脈疾患を持つ女性糖尿病患者の下肢動脈血流に対する効果を評価することである。今回の実験を行うことで、末梢動脈疾患を持つ糖尿病患者に対する物理療法の有効性を確認でき、根拠に基づいた治療が可能になると考えられる。

方法

 対象者はタイプⅡの糖尿病と診断された女性を20名集めて、除外基準にあてはまる5名を除いた15名とした。除外の内訳は3名は運動習慣がある人で、2名は喫煙習慣がある人だった。末梢動脈疾患の状態は足首上腕指数(ABI)を使用して分類された。ABIは上腕と後脛骨動脈の血圧を測定し、収縮期血圧の比率で計算された。対象者15名の末梢動脈疾患重症度は13名が軽度(mild)で2名が中等度(moderate)、年齢は平均77.9±6.2歳、body mass indexは30.47±4.99 kg/m2で、全員右ききだった。血流速は、ドップラー超音波装置を使用して、大腿動脈、膝下動脈、後脛骨動脈、足背動脈を評価した。
 対象の15名に対して、無作為のクロスオーバートライアルを実施した。対象者を、高電圧治療群、短波ジアテルミー群、運動群に無作為に分けてそれぞれ治療を行い、血流速をセッション前と終了後、0,20,40,60分後にそれぞれ測定した。その後7日間のウォッシュアウト期間を設けて、初回とは違う治療になるようにグループ分けを行い、同様の治療と評価を行った。最後にまた、7日間のウォッシュアウト期間後に残りの治療を行い評価を行った。結果の統計処理には、二元配置分散分析とボンフェローニの多重比較を群間比較と群内比較に使用した。

結果

 グループ内の分析では、高電圧刺激と身体運動の終了後に大腿と膝窩部の血流速度が有意に減少し、身体運動では後脛骨動脈でも有意に血流速が減少した。しかしながら、グループ間の比較では有意差が認められなかった。末梢動脈疾患を持つ女性糖尿病患者の下肢血流環境は高電圧電気治療と身体運動によって大腿部で増加がみられたが、末梢では身体運動のみに増加が認められた。 

考察

 運動が末梢動脈疾患を持つ患者の血流改善に有効であるとする報告は多くあり、今回の結果も同様のものであった。高電圧刺激による効果に関する報告は少なく有効性は不明であったが、今回の実験で大腿部の血流に有意な変化が認められたことから、末梢動脈疾患の治療に有用である可能性が示された。特に運動を継続できない対象者にとっては受け入れやすい治療法だと考えられる。しかし、末梢血流量に有意な変化を認めなかったことから、刺激条件などの再検討が必要だと思える。また、今回の実験は対象者が少なかったため、対象者を増やして検討する必要性が考えられた。

【解説】

 本研究は、末梢動脈疾患を持つ女性糖尿病患者の下肢動脈血流に対する電気刺激、ジアテルミー、運動の即時効果を検討した論文である。対象者が少ないために、Shapiro-Wilk testで正規性の検定を行ったり、ドップラー超音波装置を使用した血流速の測定値は変動があるため、級内相関係数を使用して確認したり、実験計画もRCTではないがバイアスが入らないような工夫をしたり、しっかりした研究内容だと思える。運動が最も効果的で高電圧電気刺激も有効だが、短波ジアテルミーの有効性を示せなかった、とする実験結果も予想の範囲内だと考える。しかし、唯一の評価指標である血流速は、時間の経過で変動する測定結果をみると、他の評価指標をあわせて確認した方が信頼性は高くなると思える。刺激条件の再検討も含めて、今後の研究発展に期待したい。

【参考文献】

  1. Tebbutt N, Robinson L, Todhunter J, Jonker L. A plantar flexion device exercise programme for patients with peripheral arterial disease: a randomised prospective feasibility study. Physiotherapy 2011;97:244-9.
  2. Cousin A, Popielarz S, Wieczorek V, Tiffreau V, Mounier Vehier C, Thevenon A. Impact of a rehabilitation program on muscular strength and endurance in peripheral arterial occlusive disease patients. Ann Phys Rehabil Med 2011;54: 429-42.
  3. Mitchell SM, Trowbridge CA, Fincher AL, Cramer JT. Effect of diathermy on muscle temperature, electromyography, and mechanomyography. Muscle Nerve 2008;38:992-1004.

2015年06月01日掲載

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