慢性腰痛の有無による歩行時の体幹筋活動パターン:システマティックレビュー

Ghamkhar L, Kahlaee AH. Trunk muscles activation pattern during walking in subjects with and without chronic low back pain: A Systematic Review.PM R. 2015 May;7(5):519-526.

PubMed PMID:25633636

  • No.1506-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年6月1日

【論文の概要】

背景

 慢性腰痛は生物学的・心理社会学的要素や姿勢異常を含む身体障害、局所的な椎間板の運動学的な障害や運動コントロールの障害、筋不均衡が主要な原因となる。慢性腰痛患者は体幹の硬さの増加、固有受容器の機能低下、腹筋や背筋の活動パターンの変化、姿勢機能異常などを生じている。慢性腰痛患者の筋活動の変化は他動的な要因(骨・靱帯)のloosing、自動要素(筋)の機能不全、神経(神経筋)調節の減少による脊椎の不安定性に対する補償であり、快適歩行速度、ステップ長、立脚・遊脚期の減少のような歩行変化を生じる。このレビューでは慢性腰痛患者の歩行時の体幹筋活動の変化を体系的にまとめた。

目的

 本研究の目的は慢性腰痛患者の歩行時の体幹筋活動パターンを同定することである。論点は、「慢性腰痛患者の歩行時の体幹筋の活動パターンはどのような変化をするのか」である。

方法

 文献検索はElsevier, ProQuest, PubMed, Google scholar, Medlineの5つのデータベースを利用して2014年8月まで調査された。慢性腰痛患者と対照者を含み、歩行時の体幹筋活動を表面筋電図で調べた研究を分析した。患者の背景、腰痛のタイプ、対象者の数、性別、評価した筋、筋活動の特徴(振幅やタイミング)、歩行状態(トレッドミル、マット)、歩行速度が調べられた。研究は、研究デザインや方法に従ってgrade A(high quality)からgrade E (poor quality)の5段階の質的スコアに分類された。

結果

 64の研究が同定され、そのうち56の研究が除外され、8つの研究が慢性腰痛患者の歩行時の体幹筋活動パターンを評価しており、このレビューに取り込まれた。
 全体として232人の対象者(慢性腰痛130人、非症候性102人)が調査され、1つの研究における慢性腰痛患者数は4~59人であった。年齢の幅は16~70歳で、6つの研究が男女を対象とし、2つ研究は男性だけを対象としていた。慢性腰痛の罹患期間は3ヶ月から14ヶ月であった。7つの研究がトレッドミル歩行で分析されていた。6つの研究は異なった歩行速度で分析されていた。脊柱起立筋の表面筋電図はすべての研究で測定されていた。腹直筋、大殿筋、大腿二頭筋、多裂筋はいくつかの研究で測定されていた。研究の質的スコアは、6つの研究がB(good quality)、1つがC(有望でgood quality)、1つがD(質が悪いが有望な研究)だった。
 慢性腰痛患者と非症候性対照者の歩行時の体幹筋活動パターンの違いに関して、立脚期において、2つの研究が対照者と比較して慢性腰痛患者の脊柱起立筋の高い活動レベルを報告した。Lamothら1)は対照者と比較して、腰部・胸部脊柱起立筋の活動に有意な関係はなかったことを報告した。van der Hulstら2)は、二重支持期で慢性腰痛患者や対照者の腰部脊柱起立筋の活動は遊脚期より高く、慢性腰痛患者でさらに大きいことを観察した。4つの研究は慢性腰痛患者の遊脚期における脊柱起立筋の高い活動を示した。Arendt -Nielsenら3)は慢性腰痛患者の遊脚期に脊柱起立筋の活動増加を観察したが、胸部脊柱起立筋の活動には有意差を認めなかったと報告した。1つの研究は対照者と比べて多裂筋活動が慢性腰痛患者で増加していることを示し、同側と反対側の遊脚期に起こっている多裂筋活動の相違を観察した。van der Hulstら2)は遊脚期と立脚期で、慢性腰痛患者の腹直筋の筋電振幅が大きく、外腹斜筋活動は両群で有意な違いを認めなかったが、二重支持期で遊脚期の活動と比較して大きかったことを示した。
 歩行速度の変化に反応した体幹筋活動パターンに関して、7つの研究が快適歩行速度より早い歩行速度が体幹筋の活動レベルが増加することを示した。しかし、Lamothら1)は歩行速度の増加は4.6km/h(快適歩行)に至るまで遊脚期の腰部脊柱起立筋の平均振幅は減少し、その後、慢性腰痛の有無に関わらずこの振幅は増加し、二重支持期において速度と腰部脊柱起立筋の活動との間に有意な関係はなかったと報告した。踵接地時に歩行速度の増加に対応して慢性腰痛患者の脊柱起立筋の活動が大きく変化したが、脊柱起立筋の活動レベルの変化は対照者の変化とは異なっていた。慢性腰痛患者の脊柱起立筋の活動増加は歩行速度の変化に適応することなしに観察された。 

考察

 慢性腰痛患者の歩行時の腰部脊柱起立筋の筋活動は対照者と比較して高くなる。この要因として、脊柱運動を調節する脊柱起立筋の役割が考えられ、増加した脊柱起立筋の活動は脊柱の不安定性を補うための保護的な戦略になっている。この補償的なメカニズムは表在筋を過剰に働かせ、保護された運動を作り出し、脊柱に高いストレスを生じている。また、慢性腰痛患者の遊脚期における多裂筋の大きな筋電活動や歩行時の腹直筋の高い活動レベルを報告した。これは、脊柱の不安定性が慢性腰痛の主要な要因であることを示唆している。つまり、増加した体幹筋の活動は腰痛患者の減少した脊椎の安定性に対する機能的適応性に関係している。解剖学的に脊柱起立筋と腹直筋の上部線維は拮抗関係で機能している。それ故、矢状面での脊椎運動は脊柱起立筋と腹直筋によってコントロールされていると仮定できる。脊柱起立筋と腹直筋の増加した同時活動は脊柱の運動を調整する役目があり、保護された運動を作り出しているのかもしれない。腰部脊柱起立筋の延長した活動は、安定性を高める神経筋システムの機能的な適応として解釈されるかもしれない。
 歩行速度の変化に対応した体幹筋活動のパターンに関して、歩行速度と体幹筋に相関があり、早い歩行速度では腰痛がある人もない人も筋電図の振幅が増加し、筋活動レベルも増加する。しかし、腰痛患者は歩行速度の変化に対応して腰部脊柱起立筋の活動を適応させることは困難であり、腰痛患者はゆっくり、注意深い歩行によって調整された動作を強めようと試みている。歩行時の腰部脊柱起立筋の活動の変化は予期せぬ変化にうまく対処するために筋硬度を増加させることによって脊柱を安定させていると考えられる。 

【解説】

 このシステマティックレビューでは、表面筋電図を用いて慢性腰痛患者の歩行時の体幹筋の活動パターンを調査した8つの研究論文を抽出している。そして、慢性腰痛患者の腰部脊柱起立筋は歩行時に活動が増加し、歩行時の脊柱の安定性を保持するための適応戦略として働いていると考察している。筋活動パターンは歩行のphaseによって変化し、その変化した筋活動は慢性腰痛患者の脊椎の安定性を高めるための補償的な戦略であると考えられる。慢性腰痛の有無にかかわらず、歩行速度の増加によっても脊柱起立筋活動は増加し、これは脊椎の安定性を示す。しかし、慢性腰痛患者はゆっくり、注意深い歩行によって運動をコントロールしており、歩行速度の変化に対応して筋活動を適応させることは難しく、健常者と慢性腰痛患者に見られる筋活動パターンは異なるとしている。
 著者らも述べているが、慢性腰痛の定義や対象の選定、深層筋の評価、分析方法など、研究方法に制限があり、いくつか矛盾した研究結果が観察されたとしている。一定した見解を得るには難しいかもしれないが、慢性腰痛患者の歩行中に観察される筋活動パターンの変化をまとめたことは有意義であり、今後リハビリテーションアプローチの影響を研究するのに役立つかもしれない。

【参考文献】

  1. Lamoth CJ, Meijer OG et al., Effects of chronic low back pain on trunk coordination and back muscle activity during walking: changes in motor control. Eur Spine J. 2006 Jan; 15: 23-40.
  2. Van der Hulst M, Vollenbroek-Hutten MM et al., Lumbar and abdominal muscle activity during walking in subjects with chronic low back pain: support of the "guarding" hypothesis? J Electromyogr Kinesiol. 2010; 20: 31-38.
  3. Arendt-Nielsen L, Graven-Nielsen T et al., The influence of low back pain on muscle activity and coordination during gait: a clinical and experimental study. Pain. 1996; 64: 231-240.

2015年06月01日掲載

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