インピンジメント症候群による可動域制限と疼痛に対するモビライゼーションの効果:ランダム化比較試験による検証

Delgado-Gil JA, Prado-Robles E, Rodrigues-de-Souza DP, Cleland JA, Fernández-de-Las-Peñas C, Alburquerque-Sendín F: Effects of mobilization with movement on pain and range of motion in patients with unilateral shoulder impingement syndrome: a randomized controlled trial. J Manipulative Physiol Ther. 2015;38(4):245-52.

PubMed PMID:25936465

  • No.1507-1
  • 執筆担当:
    鹿児島大学医学部
    保健学科理学療法学専攻
  • 掲載:2015年7月1日

【論文の概要】

背景

 肩関節痛は最もよくみられる疾患の一つであり,その罹患率は2.4~4.8%と報告されている。また,肩関節痛はインピンジメント症候群に起因するものが多いとされている。インピンジメント症候群に対する介入としては,一般的に抗炎症剤と理学療法が選択される。理学療法では運動療法とマニュアルセラピーが用いられることが多い。肩関節痛に対するマニュアルセラピーの効果は,システマティックレビューでは否定的とされるが,運動併用モビライゼーションについては短期的な効果が認められるとされている。しかし,運動併用モビライゼーションの効果については研究が少なく,情報の蓄積が必要と指摘されている。
 インピンジメント症候群では,上肢挙上時に上腕骨頭が前上方に偏移することが指摘されている。上腕骨頭の後方滑りを促す操作は,そのような異常を改善するのに有効であることが予測される。しかし,運動併用モビライゼーションの効果をランダム化比較試験で検討した報告は少なく,その効果は明確になっていない。

目的

 本研究の目的は,インピンジメント症候群を呈する症例の疼痛と自動可動域に対する,運動併用モビライゼーションの効果を検証することである。

方法

 研究デザインは,CONSORTガイドラインに基づいたランダム化二重盲検比較試験とした。対象は,インピンジメント症候群による片側の肩関節に疼痛を有する症例とし,疼痛が3ヶ月以上持続しており,Neerテスト, Hawkinsテスト, Jobeテストの内2つ以上が陽性の者とした。一方,線維筋痛症や腱損傷を伴った症例,1年以内に副腎皮質ステロイドの注射 を受けた者,6ヶ月以内に理学療法を受けた者は除外した。87名の対象者のうち,除外基準に該当しなかった42名を,運動併用モビライゼーション群と偽操作群の2群に無作為に分け (各群21名)比較した。
 運動併用モビライゼーション群に対しては,10年以上のマニュアルセラピーの経験をもつ理学療法士が,肩関節屈曲時に上腕骨頭を後外方に滑らせる操作を行った。操作は疼痛を生じさせないように調整し,10回の肩関節屈曲を3セット実施した。偽操作群に対しては,肩甲骨後面と大胸筋に両手掌を置くだけとし,運動併用モビライゼーション群と同様に肩関節屈曲を行った。両群とも2週間で4回の介入を実施した。
疼痛の評価はNumeric rating scale (NRS)にて評価し,1日をとおしての疼痛,夜間の疼痛,上肢挙上時の疼痛を調査した。肩関節の自動可動域は,疼痛が生じない範囲で運動可能な可動域とし,屈曲(肩甲骨面での挙上),伸展(腹臥位),外転(坐位),外旋(仰臥位,セカンドポジション),内旋(腹臥位,セカンドポジション)について測定した。
 疼痛と自動可動域の変化を,時期(介入前後)と介入の種類を要因とした反復測定の二元配置分散分析を用い分析した。また,効果量として標準化平均値差を算出した。

結果

 運動併用モビライゼーション群の年齢は55.4±7.8才,罹患期間は9.2±6.7ヶ月であった。一方,偽操作群はそれぞれ,54.3±10才,11.7±7.9ヶ月であった。上肢挙上時の疼痛は運動併用モビライゼーション群で6.2±1.9から,5.1±2.2に改善し,効果量は0.50であった。一方,偽操作群では,6.8±1.6から7.1±4.5に変化し,効果量は-0.17であった。上肢挙上時の疼痛については,有意な交互作用を認めた。1日とおしての疼痛,夜間痛については有意な交互作用を認めなかった。
 自動可動域は運動併用モビライゼーション群では屈曲が133.6±25.7°から153.7±15.6°に改善し(効果量0.97),外旋が46.1±18.6°から62.9±19°に改善した(効果量0.36)。偽操作群では屈曲が介入前141.6±20.7°,介入後142.5±20.4°(効果量0.04),外旋ではそれぞれ55.7±14.9°,54.3±16.5°(効果量 -0.09)と明らかな差を認めなかった。二元配置分散分析の結果,屈曲と外旋については有意な交互作用を認めたが,伸展と内旋については有意な交互作用を認めなかった。  

考察

 本研究の結果では,運動併用モビライゼーションによって挙上時の疼痛と,屈曲・外旋の自動可動域が改善することが示された。今回は,特に屈曲について効果が著明であった。今回は,肩関節屈曲における上腕骨頭の運動異常に介入しており,妥当な結果と考えられた。
 インピンジメント症候群を呈する症例では,後方関節包の柔軟性低下によって上腕骨頭の運動異常が誘発されることが報告されている。今回用いた上腕骨頭の外後方への滑りの操作は,後方関節包の柔軟性に影響を与えたと考えられる。
 今回の研究では,運動併用モビライゼーションのみの介入を行ったが,実際の理学療法では運動療法などと併用するのが一般的である。今後は,そのような複合的な介入や長期的な効果,機能評価などを含めた検討が必要と考えられる。

【解説】

  屍体肩を用いた研究では,肩関節の後方関節包の柔軟性の低下が,内旋の可動域制限や上腕骨頭の上方移動を誘発し,結果としてインピンジメント症候群に関連することが知られている1)。今回用いられた手技は,この後方関節包の柔軟性の改善に寄与したと考えられる。考察で述べられているとおり,モビライゼーションとストレッチ等との組み合わせがより効果的と考えられる。今回の手技とは異なるものの,肩関節内旋の可動域を拡大するためには,ストレッチ単独よりもモビライゼーションとの併用のほうが,成績が良かったとする報告もなされている2)
 この研究のように個別の症候に対して,適切な介入を選択するための基礎的な情報の蓄積が重要である。また,一方でこれらの情報を統括して,肩関節痛の評価とその対応をアルゴリズムとしてまとめる研究も進められている3)。今後,各疾患について,適切な理学療法を選択できるアルゴリズムが整理されることが期待される。

【参考文献】

  1. Grossman MG, Tibone JE, McGarry MH, Schneider DJ, Veneziani S, Lee TQ. A cadaveric model of the throwing shoulder: a possible etiology of superior labrum anterior-to-posterior lesions. J Bone Joint Surg Am. 2005;87(4):824-31.
  2. Manske RC, Meschke M, Porter A, Smith B, Reiman M. A randomized controlled single-blinded comparison of stretching versus stretching and joint mobilization for posterior shoulder tightness measured by internal rotation motion loss. Sports Health. 2010;2(2):94-100.
  3. Klintberg IH, Cools AM, Holmgren TM, et al. Consensus for physiotherapy for shoulder pain. Int Orthop. 2015;39(4):715-20.

2015年07月01日掲載

PAGETOP