事務職員の頸部痛予防に対する運動プログラムの効果:12ヶ月間のクラスター無作為化比較試験

Sihawong R, Janwantanakul P, Jiamjarasrangsi W. Effects of an exercise programme on preventing neck pain among office workers: a 12-month cluster-randomised controlled trial.Occup Environ Med. 2014; 71(1): 63-70.

PubMed PMID:24142988

  • No.1511-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2015年11月1日

【論文の概要】

背景

頸部痛は事務職員にとって健康上の大きな影響を与える問題であり、長期的にみると、患者自身や社会にとって大きな社会的・経済的損失を招くものである。しかし質の高い無作為化比較試験はほとんど報告されておらず、事務職員の頸部痛を予防するための運動療法の効果については根拠に乏しい。

目的

 本研究の目的は筋のストレッチングと持久性トレーニングに焦点を当てたプログラムが事務職員の12か月間の頸部痛の発生率に与える効果を評価することであった。

方法

 標準以下の頸部屈曲可動域あるいは頸部屈曲筋の持久性を有する健康な事務職員(18歳~55歳で現在の職務内容に1年以上従事している常勤職員)に対して、12ヶ月間のクラスター無作為化比較試験を実施した。参加者は12の大企業で募集された。567人の健康な事務職員は集団レベル(企業ごとに)で無作為に介入群(n=285)と対照群(n=282)に割り付けられた。介入群の参加者は毎日のストレッチング運動(僧帽筋上部線維、肩甲挙筋、胸筋群、大後頭直筋)と週2回の頸部の長い筋群(頭長筋、頸長筋、前頭直筋、外側頭直筋)の筋持久力トレーニングを行った。ストレッチングは勤務日の午前10時と午後2時の2回、30秒のストレッチを行った。筋持久力トレーニングは自宅で、水曜日と日曜日の週2回、10回の反復運動を行った。介入群は最初の3か月間、指導に従って運動を実施するように携帯電話による短文のメッセージを勤務日の毎朝10時に受信した。対照群は一切の介入を受けなかった。主要な効果指標を12ヶ月間の頸部痛の発生頻度とし、二次的な効果指標を痛みの強度(visual analog scale)、能力障害レベル(Neck Disability Index)、主観的なQOLと健康状態(SF36)とした。

結果

 12ヶ月の追跡期間中、介入群の12.1%および対照群の26.7%が頸部痛を経験した。生物心理社会的因子で調整後のハザード率比は、頸部痛に対する運動プログラムの予防的効果を示した(HR=0.45, 95%CI 0.28–0.71)。痛みの強度、能力障害レベル、主観的なQOLと健康状態については2群間での差は認められなかった。

考察

 本研究の運動プログラムは事務職が長時間のコンピュータの使用と書類業務を含んでいるという事実を基に立案された。持続した姿勢保持や上肢の反復運動は筋の伸張性や持久性の低下につながる可能性がある。
 先行研究では頸部痛患者に対する運動療法の効果は運動の定着度に依存することが示唆されている。本研究ではストレッチングの定着度は最初の3カ月間の方が残りの9カ月間よりも高かった。しかし、持久性トレーニングの定着度は最初の3カ月間の方が残り9カ月間よりも低かった。よって携帯電話によるメッセージの送信はそれが送られた時間に近い機会においては運動の定着を促していたといえる。
 本研究においてはストレッチングの定着度は低く(30~34%)、持久性トレーニングの定着度は中程度(57%)であったが、対照群と比較して頸部屈曲可動域の改善と頸部屈曲筋の持久性改善には十分であった。よってこれらの運動プログラムは事務職員の頸部痛発生率の軽減に寄与したと考えられる。理論的にはこれら2種類の運動は持続した姿勢保持や上肢の反復運動による悪影響の予防に有用であるといえる。
 本研究では痛みの強度や能力障害、主観的なQOLや健康状態は2群間で有意な差がみられなかったことから、これらの問題を改善するための効果的な介入手段は頸部痛の予防とは異なった手段が必要であると考えられる。

まとめ

運動プログラムは頸部屈曲可動域が標準以下の事務職員の頸部痛の発生率を減少させ、頸部屈曲可動域を増大させた。

【解説】

 近年、疾病予防に対する関心が高まっており、理学療法に関しても疾病予防の取り組みに関しては医師の指示を必要としないと公表されている。また欧米では盛んに行われている勤労者に対する産業理学療法についても国内での関心が高まり始めている。今回取り上げたような情報は、我々が今後積極的に予防理学療法や産業理学療法を展開していく上でその効果を示す重要なデータとなるものである。
 自主練習プログラムの実施においてはプログラムの定着度が大きな課題となるが1,2)、先行研究でも運動の定着度は低いことが報告されている3,4)。本研究でも携帯電話から運動の実施を促すメッセージが送信されていた間には運動の定着度が高かったことが報告されている。対象者に自主練習を指導する際には、対象者が運動を正しく理解し、継続して実施してもらうためにどのような工夫をすべきかを考慮することが重要となろう。

【参考文献】

  1. Nikander R, Malkia E, Parkkari J, et al. Dose-response relationship of specific training to reduce chronic neck pain and disability. Med Sci Sports Exerc. 2006; 38(12): 2068-2074.
  2. Andersen CH, Andersen LL, Pedersen MT, et al. Dose-response of strengthening exercise for treatment of severe neck pain in women. J Strength Cond Res. 2013; 27(12): 3322-3328.
  3. Viljanen M, Malmivaara A, Uitti J, et al. Effectiveness of dynamic muscle training, relaxation training, or ordinary activity for chronic neck pain: randomized controlled trial. BMJ. 2003; 327(7413): 475-477.
  4. Hagberg M, Harms-Ringdahl k, Nisell R, Hjelm EW. Rehabilitation of neck-shoulder pain in womenindustrial workers: a randomized trial comparing isometric shoulder endurance training with isometric shoulder strength training. Arch Phys Med Rehabil. 2000; 81(8): 1051-1058.

2015年11月01日掲載

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