複合性局所疼痛症候群と腰痛における心理的要因,痛み,能力低下の関連

Bean DJ, Johnson MH, Kydd RR. Relationships between psychological factors, pain, and disability in complex regional pain syndrome and low back pain. Clin J Pain. 2014 Aug; 30(8): 647-653.

PubMed PMID:24135903

  • No.1603-1
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2016年3月1日

【論文の概要】

背景

 認知的および情動的要因は、腰痛を含む多くの疾患において、ヒトの痛み経験に影響を与えることは知られている。痛みに影響を与える心理的要因には、気分、認知、予測、行動様式、注意、教育歴などが含まれるが、近年のシステマティック・レビューにおいても、複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)における認知的および情動的要因の影響は明確になっていない。この領域において研究が十分でないにもかかわらず、長期間CRPSを有する患者は、心理療法を推奨・提供される場合がある。

目的

 本研究は、腰痛患者と比較し、CRPS患者における心理的要因、痛み強度、能力低下の関連を検証することを目的とする。

方法

 年齢、性別、痛みの持続期間を一致させたCRPS患者88名と腰痛患者88名を対象とした。CRPS患者の中にはCRPS type1とtype2が含まれ、腰痛患者においては腰痛あるいは下肢痛、非特異的腰痛や他の原因による腰痛患者も含まれた。そして、全ての被験者から痛み強度(Pain Numerical Rating Scale)、能力低下(Pain Disability Index)、抑うつおよび不安(Hospital Anxiety and Depression Scale)、動作に対する恐怖および再損傷(運動恐怖症)(Tampa Scale for Kinesiophobia)について各質問紙を使用し測定した。CRPS患者と腰痛患者の平均スコアを算出し、心理的要因、痛み、能力低下における関連について2グループ間で比較した。さらに、痛みや障害の予測因子を重回帰分析を用いて評価した。

結果

 CRPS患者と腰痛患者に関する痛み強度、能力低下、抑うつ、不安、運動恐怖症の測定結果は非常に類似していた。各グループ内において、抑うつ、不安、運動恐怖症と能力低下に有意な正の相関関係が認められた。またCRPS患者では痛み強度と苦痛とに有意な相関関係が認められたが、腰痛患者では関係性が認められなかった。また、両グループにおける能力低下の特有の予測因子は、痛み強度と抑うつであり、CRPS患者で能力低下と抑うつにより強い関係性が認められた。さらに、両グループの痛み強度の特有の予測因子は運動恐怖症であったが、痛み強度に対する不安はCRPS患者に特有の予測因子であった。

考察

 腰痛患者と比較し、CRPS患者において、能力低下と痛みの重症度はより心理的要因と強く関連が認められた。この原因として、1)心理的苦痛により誘発された交感神経活動による影響、2)腫脹や色調、体温変化などCRPS患者が経験する症状が広範なため、心理的要因とより密接な関係性を持つ可能性,などのメカニズムが考えられる。

まとめ

 年齢、性別、痛みの持続期間を一致させたCRPS患者と腰痛患者において、痛み強度と抑うつが能力低下と関連し、抑うつと能力低下の関係性は、腰痛患者よりCRPS患者でより強い結果となった。そして、運動恐怖症は痛み強度と関係しているが、不安はCRPS患者における痛み強度と関係し、腰痛患者では認められなかった。

【解説】

 慢性疼痛において、不快や嫌悪などの痛みの情動的側面の関与が大きいことが報告されているが、本研究から慢性疼痛の種類によって、影響を与える情動的要因が異なる可能性が示された。このことは、対象とする慢性疼痛の特徴を適切に把握する重要性と、心理学的評価や治療提供、対象の識別に役立つ可能性を示しており、有用な報告と考える。先行研究より、CRPSにおける心理的要因が経過とともに変化する可能性もあり、異なる時期における検証や今回明らかにできなかった因果関係についての検証が今後期待される。

【参考文献】

  1. Beerthuizen A, Stronks DL, et al.: The association between psychological factors and the development of complex regional pain syndrome type 1 (CRPS1)—A prospective multicenter study. Eur J Pain. 2011; 15: 971–975.
  2. Harden RN, Bruehl S, et al.: Development of a severity score for CRPS. Pain. 2010; 151: 870–876.

2016年03月01日掲載

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