死亡率に対する運動と薬物介入の効果の比較:メタ疫学研究

Naci H, Ioannidis JP. Comparative effectiveness of exercise and drug interventions on mortality outcomes: metaepidemiological study. BMJ. Oct 1;347:f5577, 2013.

PubMed PMID:24473061

  • No.1604-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部
    理学療法学科
  • 掲載:2016年4月1日

【論文の概要】

背景

 大規模コホート等において、運動療法や身体活動を増加させることはQOL向上、様々な疾患の予防、さらに死亡リスクを下げることが示されている。また、無作為化比較試験で薬物療法にある程度の死亡抑制効果があると報告されている。しかし、運動療法と薬物療法の効果の比較を示したものはみられない。

目的

 ネットワークメタ解析により多重比較メタ解析を用い、死亡率に対する運動療法と薬物療法の効果の比較をすることとした。

方法

 研究デザインはメタ疫学的研究で、2013年5月までのMedlineおよびコクランレビューを用い、取り込み基準は運動療法と薬物療法(スタチン、ベータ遮断薬、ACE阻害薬、抗血栓薬等)、それぞれと対照群(プラセボあるいは日常ケア)を比較し死亡率をアウトカムとした無作為化比較試験のメタ解析とした。また、メインアウトカムは死亡率を用いた。ランダム効果モデルのメタアナリシスを用い、研究レベルでデータを統合した。

結果

 4の運動療法と12の薬物療法を含むメタ解析16本を抽出し、対象者数は305の無作為化比較試験に参加した339,274例であった。死亡率の副次的アウトカムは、冠動脈疾患の再発予防、脳卒中のリハビリテーション、心不全の治療、糖尿病の予防の4条件とした。 症例について、冠動脈疾患群では60-100%が急性心筋梗塞患者であり、脳卒中患者では重症度は大きく異なり、発症150日までとした。心不全患者ではNYHA class Ⅱ-Ⅳ、糖尿病患者は耐糖能異常および肥満等の心血管疾患のリスクがある患者であった。 それぞれに対する運動療法は、冠動脈疾患の再発予防(包括的な心臓リハビリテーション)、脳卒中のリハビリテーション(入院、外来、地域、自宅での筋力や呼吸循環系トレーニング)、心不全の治療(有酸素運動とレジスタンス運動の複合)、糖尿病の予防(生活習慣改善への多因子介入としての身体活動量向上)であった。 運動療法の効果には、14,716例の対象者に対する運動療法の介入を受けた57の無作為化比較試験を分析した。 冠動脈疾患の再発予防と糖尿病の予防においては、運動療法と薬物療法の間に統計学的な有意差は認められなかった。脳卒中患者に対する身体活動による介入は、薬物療法よりも効果的であった(オッズ比;運動療法vs.抗凝固薬 0.09, 95%信頼区間0.01~0.70, 運動療法vs.抗血小板薬0.10、95%信頼区間0.01~0.62)。心不全患者に対しては利尿薬がより効果的であった(運動療法vs.利尿薬4.11, 95%信頼区間1.17~24.76)が、運動療法とACE阻害薬、ベータ遮断薬とは有意差は認められなかった。直接比較と間接比較間の非一貫性の差は認められなかった 。

考察

  薬物療法に比べ、運動療法の死亡抑制効果を検討しているものが少なく、また、薬物療法と比較したものも非常に少なかった。しかし、量的に不十分な部分はあるが、冠動脈疾患の再発予防、脳卒中のリハビリテーション、心不全の治療、糖尿病の予防に対する運動療法と薬物療法の効果はほぼ同等であることが示唆された。

【解説】

 本研究はメタ疫学的研究を用い、運動療法と薬物療法の死亡に対する効果を検討した数少ない論文である。今回対象となっている疾患は生活習慣病(NCDs)であり、我が国においても死因の半数以上を占め、理学療法場面で関わることが多い。今回、冠動脈心疾患や脳卒中などに対して運動は多くの薬物療法と同程度の効果をもたらしうると示唆されたことは、我々理学療法士にとって、非常に後押しになる報告である。 しかし、本論文へのコメントとして、特に脳卒中患者においてデータ数が少なく、運動について頻度、強度、時間等の定義が十分にされていない等について指摘されており1)、リスク管理のもと進められるべきである。また、今回、分析に用いられている脳卒中患者の報告2)において、まだ、脳卒中患者における死亡抑制効果に対し十分なエビデンスが確立しているとは言えないが、2013年にアップデートされたものでは、呼吸循環系トレーニングの要介護予防の効果を示している3)。 本研究のように運動と薬物の効果を、費用対効果など医療経済的視点からも検討し、運動療法の重要性について、我々が社会へ示していくことが求められる。

【参考文献】

  1. ACP Journal Club. Review: Exercise reduces mortality compared with drugs in stroke but not in CHD, HF, or prediabetes. Ann Intern Med. 2014 Apr 15;160(8):JC3.
  2. Brazzelli M, Saunders DH, Greig CA, et al.: Physical fitness training for stroke patients. Cochrane Database Syst Rev 2011 Nov 9;(11):CD003316.
  3. Saunders DH, Sanderson M, Brazzelli M, et al.: Physical fitness training for stroke patients. Cochrane Database Syst Rev 2013 Oct 21;10:CD003316.

2016年04月01日掲載

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