妊娠前の運動レベルと高負荷スポーツへの参加は妊娠中の骨盤帯痛のリスクを軽減させる

Exercise level before pregnancy and engaging in high-impact sports reduce the risk of pelvic girdle pain: a population-based cohort study of 39184 women.Owe KM, Bjelland EK, Stuge B, Orsini N, Eberhard-Gran M, Vangen S.British Journal of Sports Medicine. 2015. (online first)

PubMed PMID:26435533

  • No.1606-2
  • 執筆担当:
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 掲載:2016年6月1日

【論文の概要】

背景

 従来、妊娠中の骨盤帯痛は身体の不活動と関係があるとされており、妊娠中の有害事象の危険因子の一つとされている。

目的

 初産婦における妊娠前の余暇時間中の運動と骨盤帯痛の関係を調査すること。

方法

 この研究はノルウェーの母子を対象に行われた大規模研究(The Norwegian Mother and Child Cohort Study; MoBa) に登録されている単胎妊娠中の未経産女性39,184名を対象としたコホート研究として実施された。MoBa妊娠前の運動頻度と種類はアンケートによって妊娠17週目に聴取した。本研究では骨盤帯痛を自己申告によって骨盤前方(恥骨結合部)と左右両側の骨盤後方(仙腸関節部)のすべてに痛みがある場合と定義した。骨盤帯痛の有無は妊娠30週目に聴取した。多変量ポアソン回帰分析によって妊娠前の運動に関連した骨盤帯痛のリスクについて評価した。妊娠前の運動頻度の用量反応関係について、制限付き3次スプラインモデルによって評価した。非線形性についてのテストも行った。最終モデルは妊娠前のBMI、年齢、教育歴、腰痛の既往歴、うつの既往歴の影響によって調整した。

結果

 妊娠17週目の時点での参加者の平均年齢は28.5±4.5歳(最小14歳、最大46歳)で、研究対象者のうち4069名(10.4%)の女性が妊娠中の骨盤帯痛を訴え、妊娠前に運動をしていなかった女性のうち12.5%が骨盤帯痛を訴えた。妊娠前の運動と骨盤帯痛のリスクの間には非線形な関係が見られた(非線形テスト、p=0.003)。妊娠前の運動非実施者と比べて、妊娠前に週3~5回の運動を実施していた女性は、妊娠中の骨盤帯痛のリスクが14%低かった(調整リスク比0.86、95%信頼区間0.77-0.96)。ランニングやジョギング、オリエンテーリング、ボールゲーム、ネットゲーム、高負荷エアロビクスなどの高負荷運動に参加していた女性は骨盤帯痛の低リスクと関連していた。

考察

 妊娠前の運動習慣が骨盤帯痛のリスクを軽減するメカニズムについては明らかではないとしているが、有酸素運動と抵抗運動(筋力トレーニング)が妊娠していない健康な人や慢性疼痛患者のもつ痛みに対して鎮痛作用があったとする報告1)や、妊娠前に運動習慣があった女性ではそれを妊娠中も継続することが多いとする報告2)から、妊娠前の運動習慣が骨盤帯痛を軽減するメカニズムを説明できるかもしれない。また高負荷の運動のみが骨盤帯痛のリスク軽減と関連していたことについては、先述の有酸素運動による鎮痛効果によって説明できるかもしれない。一方でその他の種類の運動では骨盤帯痛のリスク軽減に関連していなかったことや、妊娠前の最大週5回の運動がより骨盤帯痛のリスクをより軽減していたことから、余暇での運動と骨盤帯痛の関係は運動の頻度と種類の両方に依存しているのではないかと考えられる。
 今回の研究の限界点として、妊娠前の運動に関する調査が対象者の自己申告によるものであったことや、骨盤帯痛の定義として1~2か所の痛みではなく、骨盤の前方と左右の後方(恥骨結合と両側仙腸関節)すべての痛みを有する場合として厳格な基準で定義していたことが挙げられる。また郵送によって研究への参加を呼び掛けた女性のうち実際に研究に参加した女性は38.7%にとどまり、妊娠30週目まで追跡できたのはその中の91%であったことから、研究への参加率の低さが結果に影響を及ぼしている可能性がある。また、参加者の95.4%が結婚しているか同居者のいる女性で、30歳以下の女性が64%、妊娠前に喫煙歴がない女性が69.2%、大学レベルの教育を修了している女性が60.1%であった。さらに29.5%が妊娠前に過体重あるいは肥満の女性でした。骨盤帯痛を訴えた女性においては喫煙習慣があり、過体重あるいは肥満であり、25歳以下の女性が多くを占めていた。これらのことから、参加者全体をみると平均的な妊娠女性の層よりも平均年齢が高く、喫煙者が少なく、高学歴であったことから、今回の研究の結果は参加者の選択バイアスによって影響を受けている可能性も否定できない。

まとめ

 初産前に定期的な運動習慣があり、高負荷の運動に参加していた女性は妊娠中の骨盤帯痛のリスクが低かった。

【解説】

 近年、産前産後の骨盤帯痛に対するアプローチなど、Women’s health領域への理学療法の関心が高まっている。本研究の結果は生殖可能年齢の女性に運動習慣を定着させることの重要性を示すものであり、妊娠中の骨盤帯痛の予防のための運動頻度や運動強度を示唆するものと言える。しかし著者らも述べているように今回は骨盤帯痛の定義が厳格なものであったため、骨盤の1~2か所のみ(恥骨結合部のみや一側の仙腸関節痛など)に痛みを有する女性も考慮に入れると、より多くの女性が骨盤帯痛を訴えるものと予想され、研究の結果も変わってくるものと思われる。

【参考文献】

1. Naugie KM, Fillingim RB, Riley JL. A meta-analytic review of the hypoalgesic
  effects of exercise. J Pain. 2012; 13: 1139-1150.
2. Owe KM, Nystad W, Bo K. Correlates of regular exercise during pregnancy:
   the Norwegian  Mother and Child Cohort Study. Scand J Med Sci Sports.
      2009; 19: 637-645.
 

2016年06月01日掲載

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