脳卒中後遺症者の実環境における歩行に対する介入効果:システマティックレビューとメタアナリシス

Stretton, C. M., S. Mudge, N. M. Kayes and K. M. McPherson: Interventions to improve real-world walking after stroke: A systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2016; pii: 0269215516640863. [Epub ahead of print]

PubMed PMID:27056251

  • No.1611-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学保健医療学部
    理学療法学科
    田代 英之
  • 掲載:2016年11月1日

【論文の概要】

背景

 実環境における歩行は活動量計や自己申告によって評価される実際の生活環境における歩行の実態を示し、身体機能の低下や脳卒中の再発の予防に重要であることが報告されている。しかしながら、脳卒中後遺症者においては同年代の健常高齢者と比較して、1日の歩数が50%程度であることが明らかとなっている。いくつかの無作為化比較試験にて運動療法を中心とした介入が歩行速度や歩行距離といった一定環境における歩行能力を改善させたことが報告されている一方で、実環境における歩行に対する介入の効果については明らかでない。

目的

 本研究の目的は、脳卒中後遺症者の実環境における歩行に対する介入の効果とその持続性について検証することである。

方法

 2015年11月までに発行された実環境における歩行に対する介入効果に関する論文を、EBSCO Megafile、AMED、Scopus、Cochrane Database of Systematic Reviewsより検索した。論文の適格基準は、16歳以上の脳卒中後遺症者を対象に、実環境における歩行を主要なアウトカムとした、介入群と通常の治療もしくは非介入をコントロール群とした無作為化比較試験もしくは準無作為化比較試験とした。また、セカンドサーチとして検索ワードを「walking and stroke」「gait and stroke」「activity and stroke」とし、PEDro、OT seeker & Psychbiteにて該当論文を検索した。論文はCochrane Risk of Bias Formを参考に、2名の評価者が独立して論文の抽出および研究の質を評価した。メタアナリシスの比較指標として標準化平均差(Standardised Mean Difference: SMD)を用い、介入効果を検証した。

結果

 9論文が採用された。4論文が個別もしくはグループによる課題指向型トレーニング、他5つが少なくとも1つの行動変容アプローチを包含していた。実環境における歩行の指標には、Rivermead Mobility Index,Nottingham Extended Activities of Daily Livingの移動能力項目、Physical Activity Scale for Individuals with Disabilities、ペドメーター、アクティビティモニターが用いられていた。実環境における歩行に対する介入群は、コントロール群と比較し有意な改善を示した(SMD=0.29[95%CI=0.17〜0.41])。また、3-6か月後のフォローアップにおいても効果は持続していた(SMD=0.32[95%CI=0.16〜0.48])。さらに、サブグループ解析として運動療法単独の介入と、行動変容アプローチを含んだ介入に分類して検討したところ、運動療法単独の介入では有意な効果を認めず、(SMD=0.19[95%CI=-0.11〜0.49])、行動変容アプローチを含んだ介入では有意な改善を認めた(SMD=0.27[95%CI=0.12〜0.41])。

まとめ

 脳卒中後遺症者の実環境における歩行に対する介入効果とその持続性が明らかとなった。実環境における歩行の習慣を改善させる介入は運動療法単独では効果的でなく、目標設定やセルフモニタリングといった行動変容アプローチを含んだ介入で効果的であった。 

【解説】

 脳卒中後遺症者に対する運動療法介入効果の例として、サーキットトレーニングによる介入は、歩行能力やバランス能力を向上すると報告されている1)。一方で、本研究と同様に実環境における歩行には効果的でないとする報告がある2)。また、観察研究においても、脳卒中後遺症者の地域における活動や参加に、歩行速度やバランス能力といったパフォーマンス指標でなく、転倒恐怖感が関連するという報告もある3)。このような背景から、脳卒中後遺症者の実環境における活動について、身体パフォーマンスに対する評価や介入だけでなく、心理的な要因を含めた多角的な評価や介入を併用することが効果的であると考えられる。しかしながら、脳卒中後遺症者の実環境における活動や参加に関する調査、介入研究は依然少なく、今後の臨床データの蓄積が必要である。
 

【引用・参考文献】

  1. English C, et al: Circuit class therapy for improving mobility after stroke: a systematic review. J Rehabil Med. 43(7): 565-71. 2011.
  2. Mudge S, et al: Circuit-based rehabilitation improves gait endurance but not usual walking activity in chronic stroke: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 90(12): 1989-96. 2009. 
  3. Schmid A.A. et al: Balance and balance self-efficacy are associated with activity and participation after stroke: a cross-sectional study in people with chronic stroke. Arch Phys Med Rehabil. 93(6): 1101-7. 2012. 

2016年11月01日掲載

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