若年男性および高齢男性における2週間にわたる逆流性シェアストレスの持続的増加が上腕動脈血管機能に及ぼす影響

Thijssen DH, Schreuder TH, et al. : Impact of 2-Weeks Continuous Increase in Retrograde Shear Stress on Brachial Artery Vasomotor Function in Young and Older Men. J Am Heart Assoc. 2015 Sep 28;4(10)

PubMed PMID:26416875

  • No.1701-2
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科
    長岡 凌平
  • 掲載:2017年1月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 シェアストレスは動脈壁における血液の摩擦力であり、動脈機能に対する重要な血行動態刺激である。シェアストレスには、収縮期に動脈内を末梢へと向かう順行性シェアと拡張期に動脈内を心臓へと逆流する逆流性シェアが存在する。順行性シェアストレスの増加は血管壁へ有益な影響を与える。対照的に逆流性シェアストレスの増加は血管機能に対し有害かもしれないとされており、実際に逆流性シェアレート(シェアストレスとほぼ同義の指標、以下:SR)が増加するほど上腕動脈血管内皮機能は低下すると報告されている。
 いくつかの研究では、増加した順行性シェアストレスに繰り返し曝露した場合の影響を検討し、動脈径の増大や血管内皮機能の改善を報告している。一方で血管への長期的な逆流性シェアストレスの影響についてはよく知られていない。また動物実験による先行研究は、若年者と高齢者でシェアストレスに対する異なる血管への影響を報告している。しかし健常若年者と高齢者で、上昇した逆流性シェアストレスへの長期曝露が血管内皮機能に異なる影響を与えるかについては不明である。

目的

 健常若年者と高齢者の上腕動脈において、増加した逆流性シェアに長期間曝露した場合の血管内皮機能への影響を検討する。

方法

 若年男性13名(23±2歳)、高齢男性13名(61±5歳)を対象とした。対象者には衛生目的で外す以外は2週間継続的に右前腕部に圧迫スリーブを装着させた。測定項目は両側のSR、flow-mediated dilation(血管内皮機能の指標、以下:FMD)とし、測定は安静時、スリーブ装着30分後および装着14日目に実施した。また測定はスリーブを装着した状態で行った。

結果

 若年男性では、逆流性SRは介入肢において安静時と比較し装着30分後、装着14日目で有意な増加を認めた。またFMDについても介入肢において、装着30分後、装着14日目で介入による有意な低下を認めた。
 一方高齢男性では、逆流性SRは介入による有意な増加を認めたが、FMDは装着30分後、装着14日目ともに安静時から有意な変化を認めなかった。

考察

 若年健常男性において30分間の圧迫スリーブの装着は上腕動脈内皮機能を低下させ、その血管内皮機能の低下は増加した逆流性SRに2週間曝露した後でも継続した。一方で健常高齢者では、上腕動脈内皮機能において、増加した逆流性SRの急性的・慢性的な影響は認められなかった。本研究の結果は、上腕動脈における逆流性SRの増加の影響は年齢によって異なるかもしれないことを明らかにした。
 本研究より、増加した逆流性SRへの急性的・慢性的曝露はFMDを低下させることが明らかとなった。しかし、圧迫スリーブを2週間装着しても30分間の装着よりさらに内皮機能が低下することはなかった。この長期間における逆流性SRへの曝露後の内皮機能の低下は、豚の頚動脈における生体外の先行研究が示した3日間の増加した逆流性SRが内皮型NO合成酵素の発現を減少させ血管内皮機能の低下を生じさせるという結果と一致する。
 高齢者のFMDは30分間および2週間の圧迫スリーブ装着による逆流性SRの増加の影響を受けなかった。この結果より高齢者の血管は逆流性SRの変化に対する反応性が悪い可能性が示唆された。

まとめ・結論

 若年男性は30分間および2週間の増加した逆流性SRへの曝露により血管内皮機能が低下した。一方で、高齢男性ではこのような血管機能の変化は認められず、逆流性SRの増加に対する血管機能の変化は加齢性であることが示唆された。

【解説】

 本論文では、逆流性SRの急性および慢性曝露による血管内皮機能への影響を若年者と高齢者において明らかにしている。これまでの研究では、血管内皮機能に対する逆流性SRの急性効果を検討したものが多く、そのほとんどで血管内皮機能が低下することを報告している1, 2)。しかし、逆流性SRの血管内皮機能に対する慢性効果を検討したものはなく、その効果については不明であった。よって、本論文は生体内で逆流性SRの慢性効果について検討した最初の研究であり参考となる論文である。臨床の場では患者に対し浮腫予防として圧迫スリーブを使用する場面が多々あるが、本論文はこの圧迫スリーブの使用が血管機能に悪影響を与えている可能性を示唆しており臨床の視点においても興味深い論文である。しかし本論文では血管機能の測定の際、圧迫スリーブを装着したまま測定を行っており、これが結果に影響した可能性がある。また、圧迫スリーブによる圧迫のため圧迫圧の調節ができないことや下肢における逆流性SRの慢性効果を検討していないなどいくつかの研究限界を抱えている。今後は、圧迫圧の影響や部位による影響の違いなど、さらなる検討が必要であると考えられる。

【引用・参考文献】

  1. Thijssen DH, Dawson EA, et al.: Retrograde flow and shear rate acutely impair endothelial function in humans. Hypertension. 2009; 53 (6) : 986-92.
  2. Schreuder TH, Green DJ, et al.: Acute impact of retrograde shear rate on brachial and superficial femoral artery flow-mediated dilation in humans. Physiol Rep. 2014; 2 (1) : e00193.

2017年01月01日掲載

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