長時間の座位が微小血管と大血管の反応に及ぼす性差の影響

Vranish JR, et al. : Influence of sex on microvascular and macrovascular responses to prolonged sitting. J Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2017 Apr 1;312(4):H800-H805.

PubMed PMID:28130340

  • No.1706-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院
    保健医療学研究科
    伊藤翔太
  • 掲載:2017年6月1日

【論文の概要】

背景、緒言

 日常の座位時間の増加は心血管リスクの増大と関係がある。また、女性は男性よりも日常生活における座位時間が長いと報告されている。近年の報告では長時間の座位保持が下肢の微小血管と大血管の血管拡張機能を減少させるといわれている。しかしながらこれらの報告は男性を対象としているものがほとんどで、特に長時間の座位が女性の血管機能に与える影響についてはあまり知られていない。

目的

 健常若年男性と健常若年女性の膝窩動脈を対象に、3時間の座位保持が反応性充血と血流依存性血管拡張反応(FMD)に与える影響に性差があるかを検討すること。

方法

 対象は、健康な若年成人20名(女性12名,男性8名)とした。女性については定期的な月経周期を有する者を対象とし、月経周期における第1−5日の間である卵胞期前期に測定を行った。
 微小血管の機能の測定には反応性充血、大血管の機能の測定にはFMDを用いた。反応性充血およびFMDの測定は膝窩動脈を対象とし、超音波診断装置を用いて行った。ベースライン測定を2分間行い、その後、腓骨頭の遠位に巻いたカフを用いて220 mmHgの圧で5分間の下腿駆血を行った後、開放した。開放後は3分間測定を継続した。反応性充血は開放時点から開放後最大血管径に至るまでの期間における血流の曲線下面積によって求め、FMDはベースラインの血管径から開放後の最大血管径への拡張率で求めた。測定は座位保持前と座位保持後の2回実施し前後で比較した。座位保持は快適な椅子に座り3時間継続するものとし、座位保持開始から10分、1時間、2時間、3時間の時点において膝窩動脈における血流と血管径を測定した。

結果

 FMDは座位保持後に男性において有意な低下を認めた。反応性充血は、座位保持前において男性で有意に大きく、座位保持後は男女ともに有意な低下を認めた。座位保持中のシェアレイト(血流が血管壁に与えるずり応力の指標)は座位保持前と比較し、座位開始10分から3時間までの間で、男女ともに低下した。

考察

 3時間の座位保持によるFMDは女性では低下しなかったが、男性では低下した。注目すべきは座位保持によるFMDの低下の主要な刺激は座位中のシェアレイトの低下であると報告されているが、座位保持中のシェアレイトの低下は男女間の差がなかったことである。したがって大血管の機能について女性はより保護されている可能性が考えられた。対照的に微小血管反応(充血性血流の曲線下面積の減少)は男女ともに座位によって減少した。
 今回の研究ではこのような差異が生まれたメカニズムについては明らかにできないが、一酸化窒素(NO)産生の男女差が結果に影響を与えた可能性が考えられる。動物やヒトの実験では女性において内皮型NO合成酵素の発現やNO産生、NO依存性の血管拡張反応が大きいことが示されている。したがって若い女性では長時間の座位保持によるシェアレイトの低下にも関わらず、より大きなNOの生体利用能が導管動脈の血管拡張を保護した可能性がある。またFMDやNO合成酵素活性に影響を与える因子として性ホルモンであるエストロゲンの発現があるが、本研究ではエストロゲン産生が最下点となる卵胞期前期に測定を行っているため、性周期に依存した性ホルモンによる影響は最小限であったと考えられる。しかしながらエストロゲン産生は常に維持されていることや、思春期前の女児において座位による大腿動脈FMDの障害が引き起こされたことからも、本研究の結果に性ホルモンが影響している可能性も考えられる。

まとめ・結論

 若年女性において長時間の座位はFMDを低下させなかった。しかし微小血管の機能を示す反応性充血は男女ともに低下した。長時間の座位が血管機能に与える影響に男女差があった要因として、NO産生の男女差や性ホルモンによる影響が考えられた。

【解説】

 長時間の座位が血管内皮機能を低下させるという報告が複数ある1, 2)が、本研究は性差が存在することを明らかにしている。入院患者などでは臥床時間や座位時間が長くなりやすく、シェアレイトの低下による血管内皮機能障害が引き起こされやすいと考えられる。そして、それは男性において障害されやすい可能性が示唆された。このことから特に男性においては血管内皮機能の観点からも早期離床や身体活動量の増加などの対策が必要であるといえるかもしれない。
 また、考察では健常若年女性において座位によるFMD低下が抑制された原因としてNO産生能や性ホルモンの影響が挙げられているが、今後はこれらのメカニズムについてさらなる検討が必要である。

【引用・参考文献】

  1. Thosar SS, Bielko SL, et al.: Differences in brachial and femoral artery responses to prolonged sitting. Cardiovasc Ultrasound. 2014; 12: 1–7.
  2. Morishima T, Restaino RM, et al.: Prolonged sitting-induced leg endothelial dysfunction is prevented by fidgeting. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2016; 311: H177-82. 

2017年06月01日掲載

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