ICU関連筋弱化の根底にあるメカニズムと他動的な機械的負荷の効果

Llano-Diez M. et al. : Mechanisms underlying ICU muscle wasting and effects of passive mechanical loading. Crit Care. 2012 Oct 26;16(5):R209.

PubMed PMID:23098317

  • No.1709-1
  • 執筆担当:
    札幌医科大学大学院保健医療学研究科
    芦田 雪
  • 掲載:2017年9月5日

【論文の概要】

背景、緒言

 重篤なICU患者は、重度の筋萎縮と筋機能の障害が生じる。これはICU関連筋力低下(ICU acquired weakness: ICUAW)といわれ、ICU治療終了後も長期に渡り生じ、その後の合併症の罹患率および医療費の増加をもたらし、患者のQOLを低下させる。重症疾患ミオパチー(critical illness myopathy: CIM)は、ICU患者において頻繁に観察される神経筋接合部の障害であり、ICUAWの原因の一つであると考えられている。誘引因子として敗血症、全身性の副腎皮質ステロイドホルモン治療、シナプス後神経接合部の遮断薬などが挙げられており、これらの因子単独、もしくは複合することにより生じる骨格筋への機械的刺激の喪失(mechanical silencing)がCIMの原因であることを、近年のICUモデルラットを用いた研究が示している。

目的

 筋のMechanical silencingを減少させる特定の介入が、ICU患者の下肢筋に与える効果について検証すること。加えて、CIMの根底にあるメカニズムを明らかにすること。

方法

 鎮静状態にある人工呼吸器装着ICU患者(副腎皮質ステロイドホルモン剤の使用、神経遮断薬、敗血病の患者を除く)7名を対象とし、片側足関節に他動的な負荷を加えた。負荷は150˚/分の足関節底背屈運動(底屈30˚~背屈25˚)を1日10時間(2.5時間を4回)、9±1日間実施した。介入最終日に患者の前脛骨筋に対し筋生検を行った。

結果

 全ての患者において、CIMの病理的特徴である、重度の筋萎縮、ミオシンの選択的な減少が両側にみられた(P < 0.001)。9±1日の他動的な機械的負荷は非負荷側と比較し、筋量の低下を防ぐには不十分であったが、負荷側の固有張力を35%増加させた。ICU患者特有のミオシンの翻訳後修飾(PTMs)は、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の筋細胞膜における発現量の増加や細胞質内への転移と並行して観察された。

考察

 本研究の結果より、ICU患者の足関節に対し他動的な機械的負荷を加え、筋のmechanical silencing状態を減少させることは、CIMによる筋機能の低下を抑制することが示された。CIMで観察されるミオシンの選択的減少、ミオシンのPTMsは、mechanical silencingが原因となり生じることが考えられる。さらに、nNOSの発現量増加、細胞質への転移が、ミオシンのPTMsと並行して観察されたことから、nNOSの発現がCIMによる筋弱化のメカニズムに関与している可能性がある。 

まとめ・結論

 ICU患者において、筋のmechanical silencing状態がCIMの特徴であるミオシンの選択的減少とPTMsを誘引する因子であることが示された。ICU患者に対する早期からの理学療法介入は、筋のmechanical silencing状態を減少させることが可能であり、その重要性が強く支持される。

【解説】

 ICU患者の25~57%にICUAWが生じ、かつ、ICU入室から数日で生じることが報告されている1), 2)。CIMはICUAWの主要な原因であり、重度の筋萎縮に加えて、骨格筋においてミオシンの選択的な減少、ナトリウムチャネルの機能障害に起因する膜の興奮性の低下を引き起こし、筋機能の低下を引き起こす3)。本論文において、筋のmechanical silencingが、以上の筋機能障害を引き起こす因子であることが示された。また、早期リハビリ介入の中で他動的な機械的負荷を加えることが、CIMによる筋機能の低下を減少させる手段として有望であることが示された。しかしながら他動的な機械的負荷は、重度の筋萎縮を防止することはできなかった。加えて、本論文では1日10時間の介入を行っているが、実際の病院施設において、このようなmechanical silencingを十分に減少させることが可能な介入を施行することは難しく、患者、医療スタッフ、施設環境における問題により早期からリハビリ介入を行うことができない場合も考えられる。今後、CIMのさらなる病態解明に加えて、ICUでの早期リハビリテーションの重要性の理解の普及、CIMに対する有効な治療法の確立に対しさらなる検討が必要である。

【引用・参考文献】

  1. Bednarik J, Vondracek P, Dusek L, Moravcova E, Cundrle I: Risk factors for critical illness polyneuromyopathy, J Neurol 2005, 252:343-351
  2. Stevens RD, Dowdy DW, Michaels RK, Mendez-Tellez PA, Pronovost PJ, Needham DM: Neuromuscular dysfunction acquired in critical illness: a systematic review, Intensive Care Med 2007, 33:1876-1891
  3. Friedrich O, Reid MB, Van den Berghe G, Vanhorebeek I, Hermans G, Rich MM, Larsson L: The Sick and the Weak: Neuropathies/Myopathies in the Critically Ill, Physiol Rev 2015, 95:1025-1109

2017年09月05日掲載

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