食事療法下の肥満高齢者における有酸素運動、レジスタンス運動、またはその両方の効果

Villareal DT, Aguirre L, et al.: Aerobic or resistance exercise, or both, in dieting obese older adults. N Engl J Med. 2017; 376: 1943-1955.

PubMed PMID:28514618

  • No.1810-1
  • 執筆担当:
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
    忽那 俊樹
  • 掲載:2018年10月1日

【論文の概要】

 本研究は、肥満高齢者160例を対象として、フレイルからの回復や減量による筋量・骨量の減少を予防するために効果的な運動の種類を検証した無作為化比較試験である。
 対象を4群に分け、うち3群は減量プログラムとともに有酸素運動(有酸素群)、レジスタンス運動(レジスタンス群)、および有酸素運動とレジスタンス運動の併用(併用群)を実施し、対照群は減量プログラムも運動も行わなかった。
 141例が研究を完遂した。主要アウトカムであるPhysical Performance Test(高いほど身体機能が良好)の点数変化は、有酸素群とレジスタンス群がそれぞれ14%増加だったのに対し、併用群は21%増加とより大幅に上昇した。最高酸素摂取量の増加には併用群(17%増)と有酸素群(18%増)、筋力の増加には併用群(18%増)とレジスタンス群(19%増)、除脂肪体重の減少には有酸素群(5%減)、股関節骨密度の減少には有酸素群(3%減)がそれぞれ最も大きな影響を示した。以上から、肥満高齢者における機能的状態の改善には、有酸素運動とレジスタンス運動の併用が最も効果的であることが示された。

【解説】

 本邦で毎年実施されている国民健康・栄養調査(2016年)では、70歳以上の肥満者(body mass index ≧ 25 kg/m2)の割合は男性28.6%、女性23.7%であることが示されている1)。肥満に健康障害を伴うことで肥満症と診断されるが、肥満症者には体格の適正化のために食事療法や運動療法による減量が指導される2)。一方、減量は加齢に伴う筋量や骨量の減少を加速させることによって、サルコペニアやオステオペニアを生じさせ、高齢者のフレイルを悪化させることが指摘されている3, 4)。このような肥満とサルコペニアの両者を併せもつものをサルコペニア肥満と呼び、近年注目を集めている概念である。これらの背景から、減量中である肥満高齢者のフレイル予防を効果的に行うことができる方法を検討することには大きな意義がある。
 本研究より、肥満高齢者に対して食事による減量プログラムと運動療法を行う際には、有酸素運動とレジスタンス運動を併用することで、有酸素運動またはレジスタンス運動を単独で実施する場合と比べて、減量効果は変わらずに半年後の機能的状態が大きく改善することが示された。そのため、減量目的での運動療法(理学療法)を処方する対象者が肥満高齢者である場合には、有酸素運動とレジスタンス運動をバランス良く組み合わせて実施することが、身体機能を効率よく改善させるための一つの良い手段になりうると考えられた。
 ただし、本研究の結果を本邦の理学療法現場で活かすためには、いくつか考慮すべき点がある。一つ目は、肥満者に関する他の多くの研究でも同様であるが、体格が大きく異なる海外の肥満者で得られた結果をそのまま日本人へ適応するのは難しいことである。また、本研究の肥満の定義はWHO基準(body mass index ≧ 30 kg/m2)を用いていることも、本邦の一般的な基準(body mass index ≧ 25 kg/m2)とは異なっている。一方で、本邦の女性サルコペニア肥満者に対する運動療法の有効性も報告されてきており5)、日本人の肥満高齢者でも本研究と同様の結果が生じるかは興味深い。二つ目に、本研究では重症な心肺疾患、骨格筋障害、神経筋障害、および内服中の認知障害を有している者は、研究から除外されていた。また、本研究で実施した運動は一般的に推奨されている運動強度であり、対象者は様々な内容の運動を60~90分程度行うことができるくらいの身体機能を有していた。理学療法の臨床現場で遭遇する肥満者は、何かしらの疾患を有していることがほとんどであり、身体機能が低いことが多いため、本研究で処方されたレベルの運動に耐えることができない可能性も考えられる。今後は、そのような患者に適用できるような運動方法を検討することも重要になるであろう。

【引用・参考文献】

  1. 厚生労働省ホームページ:平成28年国民健康・栄養調査報告.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h28-houkoku.pdf(2018年8月31日引用)
  2. 日本肥満学会(編):肥満症診療ガイドライン2016.ライフサイエンス出版,東京,2016.
  3. Roubenoff R: Sarcopenic obesity: the confluence of two epidemics. Obes Res. 2004; 12: 887-888.
  4. Miller SL, Wolfe RR: The danger of weight loss in the elderly. J Nutr Health Aging. 2008; 12: 487-491.
  5. Kim H, Kim M, et al.: Exercise and nutritional supplementation on community-dwelling elderly Japanese women with sarcopenic obesity: A randomized controlled trial. J Am Med Dir Assoc. 2016; 17: 1011-1019.

2018年10月01日掲載

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