肩関節後方タイトネスおよび肩甲上腕関節内旋減少に対するストレッチング効果:システマティックレビュー

Mine K, Nakayama T, et al:Effectiveness of stretching on posterior shoulder tightness and glenohumeral internal-rotation deficit: a systematic review of randomized controlled trials. J Sport Rehabil 2017; 26(4): 294-305.

PubMed PMID:27632891

  • No.1911-02
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科保健学専攻博士後期課程
    海津 陽一
  • 掲載:2019年11月1日

【論文の概要】

 この論文では、肩関節後方タイトネス(Posterior shoulder tightness, PST)や肩甲上腕関節内旋減少(glenohumeral internal rotation deficit, GIRD)に対するストレッチング効果をシステマティックレビューによって検討している。論文の包含基準は、英語か日本語のPSTもしくはGIRDに対するストレッチング効果を検証したRCT(Evidence levelⅡ)としている。191本の論文を対象とし、最終的に10本の論文を取り込んでいる。9本のパラレルデザイン、1本のクロスオーバーデザインRCTの結果、クロスボディーストレッチングは自動運動、他動運動、マッスルエナジーテクニックの3様式ともPST、GIRDに対し即時的、短期的に中程度(moderate)の効果量を認めた。一方、スリーパーストレッチングは非介入群と比較して効果的であるというエビデンスは得られなかった。

【解説】

 PSTやGIRDは、野球やテニスなどのオーバーヘッドスポーツに共通して認められる機能不全である1, 2)。これらの機能不全は、肩峰下インピンジメント3)やinternal impingement4)を引き起こし、肩関節障害を引き起こすリスクの1つと認識されている。実際、プロ野球の投手を対象とした研究においてGIRDを有する選手は、高い肩関節障害リスクを有することが示されている1)。それに対し、ストレッチング介入が広く用いられているが、その妥当性やメカニズムは不明であった。近年のシステマティックレビューでは、GIRDを軽減させるためのストレッチング効果はエビデンスとして弱いことが結論づけられている5)が、取り込まれた論文が英語論文のみであることは限界の1つであった。今回のシステマティックレビューでは、野球がポピュラーなスポーツである日本の論文も取り込み、出版されている論文の言語によるバイアスを排除できるよう工夫されている。結果として、クロスボディーストレッチングは即時的、短期的に中程度の効果量を認め、スリーパーストレッチングの効果は認められなかった。これらの結果は、臨床・スポーツ現場においてPST・GIRDの予防を目的としたストレッチングの選択に際し参考になると感じた。ただし、この論文では非損傷肩を対象とした研究のみを取り込んでおり、損傷肩を対象とする場合にそのまま適応することはできない。今後は、ストレッチングの長期的な効果や、損傷肩を対象とした研究が増えていくことが期待される。

【引用・参考文献】

  1. Wilk KE, Macrina LC, et al:Correlation of glenohumeral internal rotation deficit and total rotational motion to shoulder injuries in professional baseball pitchers. Am J Sports Med 2011; 39(2): 329-335.
  2. Ellenbecker TS, Roetert EP, et al:Glenohumeral joint internal and external rotation range of motion in elite junior tennis players. J Orthop Sports Phys Ther 1996; 24(6): 336-341.
  3. Tyler TF, Nicholas SJ, et al:Quantification of posterior capsule tightness and motion loss in patients with shoulder impingement. Am J Sports Med 2000; 28(5): 668-673.
  4. Mihata T, McGarry MH, et al:Excessive glenohumeral horizontal abduction as occurs during the late cocking phase of the throwing motion can be critical for internal impingement. Am J Sports Med 2010; 38(2): 369-374.
  5. Nichols J, Stuart C, et al:Are stretches effective in the prevention and treatment of glenohumeral internal rotation deficit?. Phys Ther Rev 2012; 17(5): 261-270.

2019年11月01日掲載

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