脳卒中リハビリテーションにおけるエルゴメータートレーニング:システマティックレビューとメタアナリシス

Veldema J, Jansen P: Ergometer Training in Stroke Rehabilitation: Systematic Review and Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2020, 101(4): 674-689.

PubMed PMID:31689416

  • No.2010-02
  • 執筆担当:
    順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科
    山口 智史
  • 掲載:2020年10月6日

【論文の概要】

 研究目的は、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、エルゴメータートレーニングが有効であるかをメタアナリシスにより検討することである。PubMedとPEDroを使用し、2019年1月以前のランダム化比較試験の論文を検索した。
  抽出された論文は28報で、1,115人の脳卒中被験者が含まれていた。解析結果から、以下が明らかになった。(1)歩行能力、心肺機能、運動機能、下肢筋力、バランスや姿勢制御、痙縮、認知能力、および損傷と変性に対する脳の耐性機能を大きく改善する。(2)神経筋電気刺激によりアシストされたエルゴメータートレーニングがより効果的である。(3)低強度よりも高強度が効果的である。(4)心肺機能、日常生活動作、バランスや姿勢制御において、他の治療よりも効果的だが、歩行能力の改善にはあまり効果的ではない。これらのことから、エルゴメータートレーニングは脳卒中後のリハビリテーションを促進する可能性があると考えられた。

【解説】

 エルゴメーターを用いたトレーニングは、古くから実施されてきたが、整形疾患や呼吸器疾患の心肺機能の改善を目的とすることが多かった。しかし、エルゴメーターなどによる有酸素運動が神経回復を促すという基礎研究の知見1)が増えてきたことから、この10年間で中枢神経疾患を対象としたニューロリハビリテーションとして注目され、研究報告が増えてきている。
 今回のメタアナリシスでは、従来の心肺機能、運動機能、バランス機能、痙縮に対する効果のみならず、認知機能の向上や損傷脳における回復促進の可能性が示されており、脳卒中後のリハビリテーションとして、エルゴメーターが広く適用できることが示されている点で有益な情報だと考える。研究の限界として、発症後期間、脳損傷部位、運動障害の程度、介入条件などによる効果の違いについては十分に検討されていない。しかし、急性期や回復期においても、安全に実施できることが報告2) 3)されており、臨床においてはリスク管理を行いながら、発症後早期から生活期までの幅広い対象においてエルゴメータートレーニングを行うことには意義があると考えられる。
 エルゴメータ―は、臨床で所有している施設が多く、平地歩行やトレッドミル歩行と異なり、座位で運動が行えるため、転倒などのリスクが低く、長時間の立位や歩行が困難な患者においても安全に運動が可能である。したがって、一度セッティングを行えば自主トレーニングとして実施でき、脳卒中以外の中枢神経疾患においても運動量を確保できる点から有用性は高く、通常のリハビリテーションの補助的な使用が可能という利点がある。しかしながら、本論文でも述べられているとおりエビデンスの確立には、さらなる研究報告の増加が望まれる。

【引用・参考文献】

1) Austin MW, Ploughman M, et al.: Aerobic exercise effects on neuroprotection and brain
    repair following stroke: a systematic review and perspective. Neurosci Res.
       2014: 87: 8‒15.
2) Katz-Leurer M, Sender I, et al.: The influence of early cycling training on balance in
    stroke patients at the subacute stage. Results of a preliminary trial. Clin Rehabil.
    2006; 20: 398‒405.
3)  Tang A, Sibley KM, et al.: Effects of an aerobic exercise program on aerobic capacity,
    spatiotemporal gait parameters, and functional capacity in subacute stroke.
       Neurorehabil Neural Repair. 2009; 23: 398‒406.

2020年10月06日掲載

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