25ヶ国の低所得及び中所得国における13歳から15歳の学生のスポーツ外傷・障害受傷率

Erica J. Street, Kathryn H. Jacobsen:Prevalence of Sports Injuries Among 13- to 15-Year-Old Students in 25 Low- and Middle-Income Countries. J Community Health. 2017; 42: 295-302.

PubMed PMID:27639867

  • No.2002-02
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科
    中澤 理恵
  • 掲載:2020年2月1日

【論文の概要】

 本研究の目的は、25ヶ国の低所得・中所得国(Low - and Middle - Income Countries:LMICs)における13歳から15歳までの学生のスポーツ外傷・傷害について検討することである。Global School-based Student Health Survey(GSHS)に参加した46,922名のデータを対象に、過去1年間の外傷・障害受傷率や分類について分析した。GSHSでは1日以上学校や通常の生活を行うことが困難、または医学的な治療を必要としたものを外傷・障害と定義しており、複数回受傷した経験のある学生は最も重症度の高い外傷・障害のみを回答している。結果、過去1年間に何らかの外傷・障害を有した学生は、男子15~71%、女子8~70%であった。その内、スポーツに関連する外傷・障害の割合は男子25~60%(中央値35%)、女子12~56%(中央値24%)であり、受傷要因としてスポーツが多かった。その分類は骨折及び脱臼が多く、男子13~62%(中央値28%)、女子10~86%(中央値25%)であった。思春期における年間のスポーツ外傷・障害の受傷率は国によって異なるが、LMICsにおいても多く認められることが示された。

【解説】

 成長期スポーツ外傷・障害に対する理学療法の最終目標は(再発)予防であり、そのためにはvan Mechelenらの外傷予防の実践モデル1)が示すように、第1段階として問題特定のための発生率や重症度を示す必要がある。高所得国における思春期の学生のスポーツ外傷・障害調査において、Pickettら2)は8ヶ国を対象に調査し、男子は全外傷・障害の32%~35%(中央値41%)、女子は19%~59%(中央値37%)に認められたと報告している(Health Behaviour in School-age Children (HBSC) study使用)。しかし、高所得国と比較し医療やリハビリテーション水準などスポーツ外傷・障害を取り巻く環境がさらに厳しいと予測される低所得・中所得国(LMICs)における調査は少なく、本報告によりLMICsのスポーツ外傷・障害の現状が明らかとなったことは有益である。Global School-based Student Health Survey(GSHS)は、世界保健機構(WHO)がアメリカ疾病予防センター(CDC)らと合同に開発した調査票であり、13歳から17歳の学生を対象に学校単位で行われている3),4)。2003~2008年版のGSHSでは、複数回受傷した経験のある学生は最も重症度の高い外傷・障害のみを回答しており、実際は本報告の受傷件数より多いことが予測される。また、これらより骨折や脱臼といった重症度の高い外傷が多かったとも言える。国によって身体特性やスポーツ特性が異なると考えられるため、今後はLMICs各国において詳細なスポーツ外傷・障害調査を行い、外傷予防の実践モデル1)の次の段階である要因とメカニズムの特定、予防策の導入、その有用性の評価へとすすめることで、理学療法の目標である予防につなげることができると考える。

【引用・参考文献】

1)陶山哲夫,赤坂清和:スポーツ外傷・障害ハンドブック-発生要因と予防戦略.医学書
  院,東京,2015,pp.7-17.
2)Pickett W, Molcho M, et al.: Cross national study of injury and social
  determinants in adolescents. Injury Prevention. 2005; 11: 213–218.
3)World Health Organization: Global School-based Student Health Survey (GSHS).
  https://www.who.int/ncds/surveillance/gshs/methodology/en/
 (2019年12月8日閲覧)
4)Centers for Disease Control and Prevention: Global School-based Student
  Health Survey (GSHS).
   https://www.cdc.gov/gshs/index.htm(2019年12月8日閲覧)

2020年02月01日掲載

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