人工膝関節置換術前の膝伸展エクササイズの適用量と、術前および術後の膝伸展筋力の関係性:システマティックレビューおよび無作為化比較試験のメタ回帰分析

Rasmus Skov Husted, Carsten Juhl, Anders Troelsen, Kristian Thorborg, Thomas Kallemose, Michael Skovdal Rathleff, Thomas Bandholm. The relationship between prescribed pre-operative knee-extensor exercise dosage and effect on knee-extensor strength prior to and following total knee arthroplasty: A systematic review and meta-regression analysis of randomized controlled trials. Osteoarthritis and Cartilage. 2020; S1063-4584 (20)31121-3.

PubMed PMID:32890744

  • No.2012-01
  • 執筆担当:
    順天堂大学保健医療学部理学療法学科
    飛山義憲
  • 掲載:2020年12月8日

【論文の概要】

 人工膝関節置換術前のリハビリテーションとして実施される膝伸展エクササイズの適用量と、術前および術後の膝伸展筋力の関係性を検討し、さらに術前リハビリテーションの効果を報告することを目的としている。最終的には12の論文を対象に、膝伸展エクササイズの適用量を算出している。この膝伸展エクササイズの適用量は膝伸展エクササイズの数、介入期間(週)、1週当たりのセッション数、1セッションあたりのセット数、1セットあたりの回数を乗じ、さらにこれに1回あたりのエクササイズ強度(%1RM)を乗じたものを膝伸展エクササイズの適用量と提示し算出している。その結果、膝伸展エクササイズの適用量は術前および術後3ヶ月の膝伸展筋力と有意な関係性は認めなかった。また、膝伸展エクササイズを含む術前リハビリテーションは術前の膝伸展筋力の増大と関連性を示したが、術後3ヶ月の膝伸展筋力とは関連性を示さなかった。

【解説】

 人工膝関節置換術前のリハビリテーションは術前の運動機能を改善し、その結果術後の運動機能の向上を図るために実施される。しかしながら近年のシステマティックレビューでは術前のリハビリテーションが術後の痛みや運動機能、筋力などに大きな効果があるとは示せていない。この理由として、どの程度のエクササイズによってどのような反応がみられるか、という用量反応関係が不足していることが指摘され、膝伸展エクササイズの強度などに着目した介入がなされるようになった。そして著者らは術前の膝伸展エクササイズの適用量と膝伸展筋力の変化の用量反応関係を検討するに至った。
 しかし、結果として膝伸展エクササイズの適用量と膝伸展筋力の変化や他のアウトカムとの関連性は認められなかった。その理由として著者は膝伸展エクササイズの強度を推定したことを挙げている。この解析に含まれた12の論文のうち、%1RMに相当する強度が明記された論文はわずかに2つであった。今後はこのような用量反応関係を念頭に置き、強度に着目したデータの集積が必要であると考えられる。
 また、著者は患者がより弱い負荷でも膝伸展筋力を向上できることも今回の結果につながったと述べている。人工膝関節置換術を施行する患者は膝の痛みなどから不活動になりやすく1-3)、その結果筋力低下や運動機能低下が生じやすい。そのため筋力や運動機能が改善する見込みが大きく4)、高強度のエクササイズが不要になる可能性が考えられる5)
 このシステマティックレビューは人工膝関節置換術前のリハビリテーションについて用量反応関係を分析した初めての研究であるが、含まれた論文には膝伸展エクササイズの適用量を算出するための情報が不足していたこともあり、今後はこのような解析が可能となるよう適用量に着目したデータの集積が必要であると考える。

【引用・参考文献】

1)   Liu S-H, Driban JB, Eaton CB, McAlindon TE, Harrold LR, Lapane KL.
  Objectively measured physical activity and symptoms change in knee osteoarthritis.
  Am J Med 2016 May;129(5):497 e 505.e1.
2) Gay C, Guiguet-Auclair C, Mourgues C, Gerbaud L, Coudeyre E. Physical activity
  level and association with behavioral factors in knee osteoarthritis. Ann Phys Rehabil
  Med 2019 Jan;62(1): 14 e 20.
3) Arnold JB, Walters JL, Ferrar KE. Does Physical Activity Increase After Total Hip or
  Knee Arthroplasty for Osteoarthritis? A Systematic Review. J Orthop Sports Phys Ther.
  2016 Jun; 46(6): 431-42.
4)   Ratamess NA, Alvar BA, Evetoch TK, Housh TJ, Kibler WB, Kraemer WG, et al.
  Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc 2009
  Mar; 41(3): 687-708.
5) Regnaux J-P, Lefevre-Colau M-M, Trinquart L, Nguyen C, Boutron I, Brosseau L, et al.
  High-intensity versus low-intensity physical activity or exercise in people
  with hip or knee osteoarthritis. Cochrane Musculoskeletal Group. Cochrane Database
  Syst Rev 2015 Oct 29;29(10). CD010203.

2020年12月08日掲載

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