2型糖尿患者の身体活動と座りがちな行動の持続的な変化に対する行動介入戦略の効果:イタリア糖尿病と運動研究(IDES)の無作為化臨床試験

Balducci S, D'Errico V, Haxhi J, Sacchetti M, Orlando G, Cardelli P, Vitale M, Bollanti L, Conti F, Zanuso S, Lucisano G, Nicolucci A, Pugliese G, Italian Diabetes and Exercise Study 2 (IDES_2) Investigators: Effect of a Behavioral Intervention Strategy on Sustained Change in Physical Activity and Sedentary Behavior in Patients With Type 2 Diabetes: The IDES_2 Randomized Clinical Trial. JAMA, 2019 Mar 5; 321 (9), 880-890.

PubMed PMID:30835309

  • No.2005-02
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科
    久留利 菜菜
  • 掲載:2020年5月1日

【論文の概要】

 対象者は2型糖尿病を持つ300人で全員アメリカ糖尿病協会のガイドラインの推奨を満たすような一般的な治療を受けた。その対象者を行動介入群(150人)と一般的治療群(150人)に分けて行ったオープンラベル、評価者盲目、並行群間、優越性無作為化臨床試験である。行動介入群は1年につき個別の理論的カウンセリングセッションを1回と個別の理論と実践のカウンセリングセッションを2週間に1回、一般治療群は一般的な内科医の推奨のみ受けた。
 追跡期間の中央値は3年、平均年齢61.6±8.5才、女性が116人(38.7%)で、最終評価まで継続できたのは267名(行動介入群が133人、一般治療群は134人)であった。行動介入群と一般治療群の全体を通した平均はそれぞれ、身体活動量(METs‐時間/週)が13.8と10.5(差3.3〔95%信頼区間2.2-4.4〕、P<.001)、中強度から高強度の身体活動(分/日)が18.9と12.5(差6.4〔95%信頼区間5.0‐7.8〕、P<.001)、低強度の身体活動(時間/日)が4.6と3.8(差0.8〔95%信頼区間0.5‐1.1〕、P<.001)、座っている時間(時間/日)が10.9と11.7(差-0.8〔95%信頼区間-1.0‐-0.5〕、P<.001)であり、研究の期間中この差は保たれていたが、3年目の間に中強度から高強度の値(分/日)の2群間の差は6.5から3.6へ低下した。

【解説】

 本論文は行動介入戦略が身体活動を増加させるだけでなく、座っている時間を減らす、ということが長期的に維持可能であるかについて調査したものである。
 近年、短時間の運動を数回繰り返す、いわゆる細切れ運動の効用が示されるようになった1)。継続的な運動でなくても、1日の総運動時間が同じであれば、細切れ運動でも十分な血糖降下作用が得られるというものである2)3)。アメリカ糖尿病協会では、2型糖尿病の人々に対して、中強度から高強度の身体活動を規則的に行うことと、できるだけ座っている時間を低強度の身体活動に置き換えること、座位が長時間にならないよう低強度の身体活動で数回休憩を入れること、を推奨している4)。しかし、これらの推奨を実践することは難しく、2型糖尿病の人々は座りがちな時間を過ごしていることが多い。また、身体活動や座りがちな行動における変化が長期的に維持され得るかについての決定的なエビデンスはない。また、中等度から高強度の身体活動を増やすことについては成功したとしても、座っている時間を減らすことについては不十分であり、中等度から高強度の身体活動を増やすことにより代償的に座りがちな生活習慣を誘発しうるとも述べている。また、これまでに報告されている多くの研究ではカウンセリングを基本とし、対象者の自己報告結果を使用した内容がほとんどで、期間が12か月以上の長期に亘るものはほとんどなかった。また、中等度から高強度の身体活動量を客観的に計測したものもあるが、座っている時間に対しては効果が認められていなかった5)
 本論文の行動介入群と一般治療群は両群とも血糖、脂質、血圧、体重目標を達成できるようアメリカ糖尿病協会のガイドラインに基づいた食事療法を含む治療を受けた。そして、一般治療群は、内科医から日常の身体活動量を増やし座っている時間を減らすように勧められた。行動介入群は、個別の理論的カウンセリングセッションを1回と、1年につき2週に1回の年8回にわたる個別の理論と実践のカウンセリングセッションを3年間受けた。行動介入群の中強度から高強度の身体活動は3年目には低下は見られたものの、一般治療群よりも有意に長く、座っている時間も有意に短い、ということが3年間に亘って維持されていた。
 この研究の行動介入群に対して用いられた行動変容技術には、英国のMichie Sら6)が行動変容介入の科学的研究と報告を出来るだけ効率的にするために整理した分類法に整理された行動変容技術40項目の内、項目1.疫学などのデータに基づいた一般的な行動の結果についての情報提供、項目2.個々人の特質に基づいた個人の活動と不活動の利益や不利益などの結果についての情報提供、項目5.行動目標設定の促進、項目6.結果の目標設定(行動目標ではなく、行動によって達成され得る一般的な目標の設定)を勧める、項目7.行動計画(少なくとも、いつ、どんな状況で、どこで、というような内容を含む何を行うかの行動計画の詳細を含む)、項目8.障壁の確認と問題解決(行動変容の初期の計画を立てたと仮定して、潜在的な障壁を考え、それらに打ち勝つ方法を特定する)、項目9.段階的な目標設定(目標とする行動をより小さくより簡単な課題に分解して、目標とする行動に到達するための小さな成功を積み上げることを可能にする)、項目10.行動目標の再検討を促す、項目11.結果の目標の再検討を促す、項目21.行動をどのように遂行するかについての知識を提供する、項目22.行動のモデルになる/行動をデモンストレーションする、項目37.動機付けの面接(これは変化への抵抗を最小限にしたり、変化へのアンビヴァレンスを解決するためにチェンジトークに参加することを促すことと関連した特定の技術を含む臨床的方法である)、項目38.時間管理(これは行動への時間を作るための時間管理の方法を教えることをデザインした技術を含む)が適用され個々の対象者へのきめ細かい介入が行われていた。
 本邦においては、日本糖尿病学会が設置した「糖尿病運動療法・運動処方確立のための学術調査研究委員会」は、日本医師会との共同企画により、2008 年には糖尿病専門医、一般内科医に対し、2009年には全国の糖尿病専門医療機関に通院中の患者に対しアンケート調査を実施し、食事療法に関しての指導はほとんどすべての患者に行われているが、運動療法に関しての指導は約4割の実施状況であり、食事療法との間に大きな「較差」が存在することが判明した7)。また、2013年の国民健康・栄養調査結果においては、運動習慣者の割合は男女とも依然として増加せず、身体不活動の状況に関する調査によると、1日の身体不活動(座ったり寝転がったりして過ごす)の時間が8時間以上である者の割合は、男性で約40%、女性で約35%であった1)。本邦では、診療報酬の関係などにより理学療法士による運動指導や理学療法が行われている地域は少なく、糖尿病そのものに対する理学療法ではなく、脳血管疾患や運動器疾患に糖尿病を合併している患者に対して理学療法を行っていることが多い8)。また、近年、糖尿病腎症による新規透析導入患者数は1万人を超え、年間人工透析の医療費は約500万円と国民保険財政を圧迫している。今後は本邦においても糖尿病の予防、糖尿病による合併症予防、さらに糖尿病を合併症にもつ患者に対する、身体活動量の増加だけでなく、座りがちな時間の低減へ向けた運動療法を専門とする理学療法士による長期的な介入戦略の適用が望まれる。
 

【引用・参考文献】

1) 井垣誠:糖尿病の理学療法.メジカルビュー社.東京.2015.101-114.
2) DiPietro L, Gribok A, Stevens MS, et al.:Three 15-min Bouts of Moderate Postmeal
  Walking Significantly Improves 24-h Glycemic Control in Older People at Risk for
  Impaired Glucose Tolerance. Diabetes Care 2013; 36: 3262-3268.
3) Peddie MC, Bone JL, Rehrer, NJ, et al.:Breaking Prolonged Sitting Reduces
  Postprandial Glycemia in Healthy, Normal-Weight Adults: A Randomized Crossover
  Trial. Am J Clin Nutr. 2013; 98 :358-66.
4) Sheri R. Colberg, Ronald J. Sigal, Jane E. Yardley, et al.:Physical Activity/Exercise and
  Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care
  2016; 39:2065-2079.
5) Harris T, Kerry SM, Limb ES, et al.:Physical Activity Levels in Adults and Older
  Adults 3-4 Years After Pedometer-Based Walking Interventions: Long-term Follow-Up
  of Participants From Two Randomised Controlled Trials in UK Primary Care. PLoS Med.
  2018; 15:e1002526.
6) Michie S, Ashford S, Sniehotta FF, et al.:A refined taxonomy of behaviour change
  techniques to help people change their physical activity and healthy eating behaviours:
  The CALO-RE taxonomy. Psychology and Health, 2011; 26, 1479-1498.
7) 佐藤祐三編:糖尿病運動療法指導マニュアル.南江堂.東京.2010.
8) 森本信三:糖尿病の理学療法.メジカルビュー社.東京.2015.
9) Marcus BH, Williams DM, Dubbert PM, et al.:Physical Activity Intervention Studies:
  What We Know and What We Need to Know: A Scientific Statement From the American
  Heart Association Council on Nutrition, Physical Activity, and Metabolism (Subcommittee
  on Physical Activity); Council on Cardiovascular Disease in the Young: And the
  Interdisciplinary Working Group on Quality of Care and Outcomes Research.
  Circulation 2006; 114: 2739-52.
10) Balducci S, Sacchetti M, Haxhi J, et al.:The Italian Diabetes and Exercise Study 2
  (IDES-2): a long-term behavioral intervention for adoption and maintenance of a
  physically active lifestyle. Trials 2015; 16:569.
11) Balducci S, D’Errico V, Haxhi J, et al.:Effect of a Behavioral Intervention Strategy
  for Adoption and Maintenance of a Physically Active Lifestyle: The Italian Diabetes and
  Exercise Study (IDES) 2. Diabetes Care 2017; 40:1444-1452.
12) 理学療法士協会関連/JPTAのDMのガイドライン:
  http://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/16_diabetes.pdf
13) 厚生労働省 生活習慣予防のための健康情報サイト:
  https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-005.html

2020年05月01日掲載

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