レット症候群に対するエビデンスに基づく理学療法-システマティック・レビュー-

Fonzo M, Sirico F, Corrado B: Evidence-Based Physical Therapy for Individuals with Rett Syndrome: A Systematic Review. Brain Sci. 2020 Jul: 10(7). 410

PubMed PMID:32630125

  • No.2101_02
  • 執筆担当:
    順天堂大学保健医療学部理学療法学科
    松田 雅弘
  • 掲載:2021年1月18日

【論文の概要】

 レット症候群は稀な遺伝子疾患で,脳の発達に影響を与え,重度に精神と身体的な能力低下を引き起こす.レット症候群の個別の管理に関する理学療法の最近のエビデンスをシステマティック・レビューでまとめた.17,319編の論文から取り込み/除外基準にそって,22編の論文を最終的にレビューした.9つのアプローチが抽出され,応用行動分析,集団指導療育,環境の充実,援助のあり/なしでの水治療法・トレッドミル歩行・音楽療法・コンピューター化されたシステム・感覚に基づく理学療法であった.強い研究のエビデンスがなかったのにも関わらず,個別に分析されたアプローチは臨床的にレット症候群にとって利得があったと報告している.本結果から,自律性を維持してQOLを高めるには,レット症候群の患者に対してマルチモーダルな個別理学療法プログラムを実施することが推奨される.しかしながら,この結果を確認するには,より質の高い研究が必要となる.

【解説】

 レット症候群は稀な進行性の神経発達性障害で,主に女児でみられる.レット症候群は1966年に初めて紹介され,1999年に原因遺伝子が判明した.生後約6~18ヶ月間は正常に段階的な発達を示すが,手の動き,コミュニケーション能力などの獲得したスキルが失われる.その他に,体が柔らかい,四つ這いや歩行などの運動発達の遅れ,協調運動の障害,常同的な手の動きがあり,認知面でも外界への反応が乏しい,視線が合いにくいなどの自閉症状が目立つ.平成22年の全国調査1で国内の有病者は1000人程度の希少性疾患である.
 根治が困難なため治療・医学的管理は対症療法的で,患者の障害の程度によって異なる.各患者の症状に応じて理学療法,作業療法,言語療法などの専門家との多職種によるアプローチを行うことが望ましいとされている.今回は,そのうち理学療法に関してシステマティック・レビューを行った.
 このレビューからレット症候群の患者ごとで異なる潜在能力を最大限に発揮できるようにするために,早期の発達介入が不可欠である.理学療法プログラムは身体機能と動作の維持・改善のために,一般的にレット症候群に対して推奨される.常に個々の状態に合わせ,患者のニーズに即したアプローチを行っていく必要がある.これらのアプローチは主な目的として自律性を維持し,QOLを改善し,家族の介助者を支援することである.現在はエビデンスレベルが低く,RCTの研究が困難なので,その他の方法も検討していく必要がある.

【引用・参考文献】

1)   伊藤雅之・他:レット症候群の診断と予防・治療法確立のための臨床および生物科学の集学的研究
   総括研究報告平成22年度総括・分担研究報告書.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事
   業「レット症候群の診断と予防・治療法確立のための臨床および生物科学の集学的研究」班.
   2011;p1-11.
 

2021年01月18日掲載

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