頚椎症性神経根症に対する胸椎マニピュレーションの即時的・短期的効果：無作為化比較試験
Ian A Young, Federico Pozzi, James Dunning, Richard Linkonis, Lori A Michener. Immediate and short-term of thoracic spine manipulation in patients with cervical radiculopathy: A randomized controlled trial. Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy. 2019; 49(5):299-309
PubMed PMID:31021691
- No.2102_02
- 執筆担当：
順天堂大学保健医療学部理学療法学科
宮森 隆行 - 掲載：2021年2月5日
【論文の概要】
胸椎スラストマニピュレーションは、頚部痛のある患者に対して主観的効果を高めることが示されているが、頚椎症性神経根症に対して有効性のある根拠は限られている。本研究は、頚椎症性神経根症患者を対象とした胸椎マニピュレーションの即時的・短期的効果を偽胸椎マニピュレーションと比較することを目的としている。測定項目は、頸部および上肢の疼痛、障害、頸部可動域、持久力とし、これらの測定結果をマニピュレーション介入前、介入直後、介入後48～72時間後に追跡調査して比較した。また、末梢症状の中心化およびスラストマニピュレーション治療への信頼度変化も分析した。結果、治療直後および48～72時間後の追跡調査では、マニピュレーション群は、全ての測定項目において症状の改善が認められた。加えて、スラストマニピュレーション治療を受けることへの信頼度を高めた患者の割合が多かった。
【解説】
頚椎症性神経根症は、頚椎椎間板変性や骨棘形成などにより神経根の炎症やインピンジメント、またはその両方が原因となる1)。また、患者は頚部の痛みを伴う場合と伴わない場合があるが、上肢への放散痛が認められる1)。近年では、頚部痛に対する胸椎スラストマニュプレーション（以下TM）の有効性が明らかにされている 2, 3)。しかし、頚椎症性神経根症の患者に対するTMの有効性に関する報告は乏しく、Deschenesらは、頚椎症性神経根症の患者に対する初期TM介入において有効性は認められるものの上肢痛の改善までは至らなかったことを報告している4)。今回の研究論文においては、1回のTM介入群（n=22）が、1回の偽TM介入群（n=21）と比較して介入直後から78時間にかけて頚部および上肢の疼痛（numeric pain-rating scale：p<.01）、障害（neck disability index：p<.01）、関節可動域（range of motion：p<.01）、持久力（deep neck flexor endurance test：p<.02）が改善したこと、また、患者のTM介入に関する主観的信頼度が高まったことが特徴として挙げられる。
本研究は、多施設間による無作為化比較であり、PEDro scale5) 9/10（Blind Therapist :NO）であるため質の高いRCT研究デザインと言える。しかし、6名の理学療法士がTM介入に関わっていること、さらに徒手理学療法手技であるTM実施には熟練した技術が必要なため、理学療法士間の信頼性を評価する必要がある。また、TM介入の効果は72時間までに限定されているため、長期的な効果に関する結果の解釈については注意が必要である。さらに、患者年齢の採択基準が18歳から65歳までと幅広いため、今後は、特定の年齢層に焦点を当てサンプル数を増加し、頚椎症性神経根症に対するTM介入の効果を一般化していくことが望まれる。
本研究は、多施設間による無作為化比較であり、PEDro scale5) 9/10（Blind Therapist :NO）であるため質の高いRCT研究デザインと言える。しかし、6名の理学療法士がTM介入に関わっていること、さらに徒手理学療法手技であるTM実施には熟練した技術が必要なため、理学療法士間の信頼性を評価する必要がある。また、TM介入の効果は72時間までに限定されているため、長期的な効果に関する結果の解釈については注意が必要である。さらに、患者年齢の採択基準が18歳から65歳までと幅広いため、今後は、特定の年齢層に焦点を当てサンプル数を増加し、頚椎症性神経根症に対するTM介入の効果を一般化していくことが望まれる。
【引用・参考文献】
1) Woods BI, Hilibrand AS: Cervical radiculopathy: epidemiology, etiology, diagnosis,
and treatment. J Spinal Disord Tech, 2015, 28: E251-259.
2) Maigne JY: Immediate effects of thoracic manipulation in patients with neck pain:
a randomized clinical trial. Man Ther, 2007, 12: e1.
3) Cross KM, Kuenze C, Grindstaff TL, et al.: Thoracic spine thrust manipulation improves
pain, range of motion, and self-reported function in patients with mechanical neck
pain: a systematic review. J Orthop Sports Phys Ther, 2011, 41: 633-642.
4) Deschenes BK, Zafereo J: Immediate and lasting effects of a thoracic spine manipulation
n a patient with signs of cervical radiculopathy and upper extremity hyperalgesia:
A case report. Physiother Theory Pract, 2017, 33: 82-88.
5) de Morton NA: The PEDro scale is a valid measure of the methodological quality of
clinical trials: a demographic study. Aust J Physiother, 2009, 55: 129-133.
and treatment. J Spinal Disord Tech, 2015, 28: E251-259.
2) Maigne JY: Immediate effects of thoracic manipulation in patients with neck pain:
a randomized clinical trial. Man Ther, 2007, 12: e1.
3) Cross KM, Kuenze C, Grindstaff TL, et al.: Thoracic spine thrust manipulation improves
pain, range of motion, and self-reported function in patients with mechanical neck
pain: a systematic review. J Orthop Sports Phys Ther, 2011, 41: 633-642.
4) Deschenes BK, Zafereo J: Immediate and lasting effects of a thoracic spine manipulation
n a patient with signs of cervical radiculopathy and upper extremity hyperalgesia:
A case report. Physiother Theory Pract, 2017, 33: 82-88.
5) de Morton NA: The PEDro scale is a valid measure of the methodological quality of
clinical trials: a demographic study. Aust J Physiother, 2009, 55: 129-133.
2021年02月05日掲載
