「まだ運転を続けますか?」患者にとって好ましい医療提供者とのコミュニケーションについてのメタ統合

Betz ME, Scott K, Jones J, Diguiseppi C: “Are you still driving?” Meta-synthesis of patient preferences for communication with healthcare providers. Traffic Inj Prev. 2016 May 18;17(4):367-73.

PubMed PMID:26507251

  • No.2007-01
  • 執筆担当:
    群馬大学大学院保健学研究科保健学専攻 博士後期課程
    小此木 直人
  • 掲載:2020年7月2日

【論文の概要】

 高齢者が安全運転または免許返納に取り組む上で、医療提供者は重要な役割を果たすが、運転に関するコミュニケーションは困難を生じることが多い。高齢者にとって好ましい運転に関するコミュニケーションを特定するために、2014年10月以前に公開され、高齢者、運転、質的研究、医療提供者とのコミュニケーションの4条件を満たす、22研究(高齢ドライバー518名)の結果を統合した。
  結果として、高齢者が好む運転についてのコミュニケーションとして、以下の5項目が抽出された。1つ目は、高齢者にとって運転に関する話題は不安やストレスを伴うため、感情に対する配慮がされていること。2つ目は、性別や医学的診断、地理的特性などの個別的な状況や環境が考慮されていること。3つ目は、医療提供者が信頼と権威を有しており、健康問題としての運転に関する教育を受けていること。4つ目は、突発的ではなく、長い期間をかけて議論が行われていること。5つ目は、高齢者が運転に関して自己決定が行えるよう、客観的評価や連携したアプローチによるエンパワーメントがなされていること。
  医療提供者は、以上を踏まえたコミュニケーションを通じて、人生の岐路にある高齢ドライバーを尊重し、自信を与え、家族を含めサポートすることが重要である。

【解説】

 近年、高齢ドライバーによる交通事故が多く報道され、高齢者の運転と免許返納が高い関心を集めている。我々理学療法士は、高齢者や脳卒中患者のリハビリテーションに関わる上で、自宅復帰後の運転継続の問題に直面することも多い。脳卒中後の運転技能予測には、Trail Making Testや実車評価が有効であるとされている1)。一方で認知機能検査は、運転技術能力と関連がないとの研究結果もあり、運転継続の判断は本人だけでなく、医療提供者でも困難であることが報告されている2)。また地域在住高齢者にとって運転は、日常生活を過ごす上で切り離せないことが多く、このような背景から、運転継続の可否についての高齢ドライバーとのコミュニケーションは困難を極める。
  本論文では、高齢ドライバーが考える医療提供者との好ましいコミュニケーションについてメタ統合した結果、5項目が抽出された。高齢者の感情や個別の状況に配慮し、信頼できる医療提供者が長い期間をかけて、運転に関して自己決定が行えるようエンパワーメントを図っていくことが好ましいという。
  具体的な実践例として、筆者が所属する病院では、検査の結果などから高齢ドライバーに対する支援を、①運転継続支援、②免許返納の促し・生活支援、③免許停止確定後の説明・生活支援、の3つに分けて介入している3)。①では、認知機能向上訓練と並行して、ドライブシミュレーターによる運転能力の評価や、運転可能な地域・時間帯の取り決めを行っている。②では、免許返納に関する情報提供の他、本人の心理面のフォローとして、医師やソーシャルワーカーを交えた面談や、家族を含めた生活支援を行っている。③では、心理面のフォローに加え、介護保険サービスや地域活動、ボランティアの紹介を行っている。
  高齢者の免許返納は、交通事故リスクの軽減に繋がる一方で、屋外活動レベルの低下や抑うつ症状の悪化などの悪影響を及ぼす可能性がある4)。また検査や評価の結果から、機械的に免許返納へと移行させるのでは、本人の感情や生活に配慮しているとは言えない。免許返納か運転継続か、いずれにしても本人が納得する形でその後の人生を「安全運転」できるように、理学療法士は早期から幅広い視野でサポートを行っていく必要があると考える。

【引用・参考文献】

1)  加藤貴志,岸本周作,井野辺純一,他:脳損傷者の実車運転技能に関連する
         神経心理学的検査について システマティックレビューとメタ分析.
         総合リハビリテーション, 2016;44(12):1087-95
2)  Hollis AM,Duncanson H,Kapust LR,et al.:Validity of the
         mini-mental state examination and the montreal cognitive
         assessment in the prediction of driving test outcome.J Am Geriatr Soc,
         2015;63(5):988-92.
3)  石田洋子,萩原裕平,小原明美,他:高齢者への自動車運転に対する
         包括的支援(ドライバーリハビリ)について‐実際の取り組みの紹介‐.
         日本認知症ケア学会誌,2019;18(1):169
4)    相原洋子,前田潔:認知症の人の運転免許保有と返納の実態.
         老年精神医学雑誌,2020;31(1) :66-71

2020年07月02日掲載

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