人工膝関節置換術後の下肢のポジションが出血量や関節可動域に及ぼす影響:無作為化比較試験のメタアナリシス

Xin Fu, Peng Tian, Zhi-jun Li, Xiao-lei Sun, Xin-long Ma. Postoperative leg position following total knee arthroplasty influences blood loss and range of motion: a meta-analysis of randomized controlled trials. Curr Med Res Opin. 2016;32(4):771-8. doi: 10.1185/03007995.2016.1142431. Epub 2016 Feb 2.

PubMed PMID:26783114

  • No.2107_01
  • 執筆担当:
    順天堂大学保健医療学部理学療法学科
    飛山 義憲
  • 掲載:2021年7月27日

【論文の概要】

人工膝関節置換術後の下肢のポジションが出血量や関節可動域に及ぼす影響を検討するため、無作為化比較試験についてメタアナリシスを行っている。最終的には10の論文を対象とし、安静時の下肢ポジションとして膝関節屈曲位または伸展位が全出血量、不可視出血量、輸血の必要性、術後ヘモグロビンレベル、関節可動域、在院日数などに及ぼす影響を検討している。その結果、術後安静時の下肢ポジションは膝関節屈曲位の方が全出血量、不可視出血量、術後のヘモグロビンレベルの低下、輸血の必要性のいずれも軽減させることが明らかとなった。さらに、術後の膝関節可動域についても膝関節屈曲位とする方が改善されることが示された。一方で深部静脈血栓症や創部感染の発症、在院日数については膝関節屈曲位、伸展位で有意な差がないことが示された。これらの結果から、術後の膝関節屈曲位保持は出血量を軽減させ関節可動域の改善にも効果的で安全に実施できることが示唆されている。

【解説】

 人工膝関節置換術後には多量の出血がみられ、この出血は術後の合併症やリハビリテーションにも影響することから1,2)、どのようにして出血量を少なくして機能面の回復を促すかが課題となっている。著者らは術後の下肢ポジションによって出血量などを管理することは特別な機器も用いず簡便に実施できる手段であるとして、出血量や関節可動域にどのような影響を及ぼすかを検討している。その結果、膝関節屈曲位とすることで全出血量や不可視出血量が軽減することが示され、著者らはこの要因として膝関節伸展位にすることで膝窩静脈の緊張が増加し、静脈還流が減少して静脈圧が増大し、不可視出血量につながるためと考察している。この出血量や不可視出血量が軽減することが関節可動域の拡大にもつながっていると考えられ、安静時に膝関節屈曲位とすることは出血量を減少させることで、早期のリハビリテーション実施につながると考えられる。
 一方で、術後安静時に膝関節屈曲位で保持することは屈曲拘縮を招くのではないかという懸念が生じる。このメタアナリシスに含まれる論文の中には膝関節屈曲位で保持しても屈曲拘縮が生じないことを報告しているものがあるが、今後長期的な検討も必要であると考えられる。
 2019年には膝関節屈曲位保持を行う際に最適な期間や屈曲角度を検討するメタアナリシスも他の研究者により実施され3)、このような研究を踏まえ、術後の出血量や腫脹を軽減するために術後7日間は安静時に膝関節30°から90°の屈曲位とすることが推奨されている4)

【引用・参考文献】

1)  Li ZJ, Fu X, Tian P, et al. Fibrin sealant before wound closure in total knee arthroplasty
   reduced blood loss: a meta-analysis. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc
   2015; 23: 2019-2025.
2)  Faldini C, Traina F, De Fine M, et al. Post-operative limb position can influence
   blood loss and range of motion after total knee arthroplasty: a systematic review.
   Knee Surg Sports
   Traumatol Arthrosc 2015: 852-859.
3)  Wang HY, Yu GS, Li JH, et al. An updated meta-analysis evaluating limb management
   after total knee arthroplasty-what is the optimal method? J Orthop Surg Res.
   2019; 14(1): 97.
4)  Jette DU, Hunter SJ, Burkett L, et al. Physical Therapist Management of Total Knee
   Arthroplasty. 2020; 100(9): 1603-1631.

2021年07月27日掲載

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