FIFA 11+ Shoulder Injury Prevention Programはサッカーゴールキーパーにおける上肢外傷・障害の抑制に効果的である:ランダム化比較試験より

Al Attar WSA et al. The FIFA 11+ Shoulder Injury Prevention Program Was Effective in Reducing Upper Extremity Injuries Among Soccer Goalkeepers: A Randomized Controlled Trial. Am J Sports Med. 2021;49(9):2293-2300.

PubMed PMID:34138672

  • No.2108_01
  • 執筆担当:
    順天堂大学保健医療学部理学療法学科
    中村 絵美
  • 掲載:2021年9月6日

【論文の概要】

 サッカー競技においてゴールキーパーは他のポジションプレーヤーに比べて上肢(特に肩)の怪我が多く発生する.本研究は,アマチュアサッカーのゴールキーパーにおいて上肢外傷・障害予防のために作られたFIFA 11+ Shoulder(FIFA 11+S)の効果を検証することである.対象を介入群(n=360),対照群(n=366)に分け,介入群には練習前にFIFA 11+Sを1シーズン(6か月)実施し,対照群は通常通りのウォームアップの実施とした(ランダム化二重盲検比較対照試験).結果,1シーズンでの上肢外傷・障害発生件数は,介入群で50件(0.62件/1000時間),対照群122件(1.94件/1000時間)の報告があり,介入群で有意に発生件数が少なかった(P<.001).FIFA11+Sは通常のウォームアップよりも68%(IRR=0.32 [95%CI, 0.27-0.34];Injury Risk Ratio)上肢外傷・障害発生を抑制していた.また,介入群では初発・再発ともに対照群に比べ少なく,対照群において3.34倍(95%CI, 2.33-4.79)初発の外傷・障害のリスクが示された.本RCTの結果から,FIFA 11+Sの実施は,ゴールキーパーの上肢外傷・障害の発生を大幅に減少できることが示唆された.

【解説】

 サッカー選手における外傷・障害発生の半数以上は下肢損傷と報告され,上肢損傷は13.4%であることが報告されている1.しかし,近年はプレーの高速化やプレッシングやマークが厳しくなりサッカー選手の肩障害が増加していることが報告されている2).これまで国際サッカー連盟(FIFA)ではFIFA 11+を外傷・障害の予防プログラムとして推奨し,その有効性が示されている3.FIFA 11+は,サッカーのみならずバスケットボール選手における外傷・障害発生の減少や4),子どものサッカー選手の体幹安定性向上にも効果がある5)との報告も散見される.しかしFIFA 11+は上肢の外傷・障害に特化した予防プログラムではない.これまで,上肢の外傷・障害予防については野球やバレーボール,ハンドボールなどオーバーヘッドアスリートでの報告が主であり,本RCTは,サッカー選手に特異的なプログラムの効果を検証した新規性の高い報告といえる.
 FIFA 11+Sは3つのパートから構成され,Part 1では全般的なウォームアップ,Part2には肩・肘・手首・指の筋群のバランス向上や強化を含み,Part3では肩甲帯周囲のプライオメトリクスや体幹機能を含んだメニューが組み込まれている.(詳細については引用を参照されたい6
 本RCTの結果から,FIFA 11+Sはゴールキーパーの上肢の外傷・障害予防に有用であることが示されたが,今回は,アマチュアの男性ゴールキーパーのみが対象となっている.そのため,プロ選手や女性においても同様の予防効果が期待できるかどうかは不明である.また,1シーズンのみの介入効果であるため,長期的な予防効果の有無については今後さらなる検証を行い,より効果的な予防プログラムへの修正が期待される.

【引用・参考文献】

1) Kirkendall, D.T. and J. Dvorak, Effective injury prevention in soccer.
   Phys Sportsmed, 2010. 38(1): p. 147-57.
2) Longo, U.G., et al., Shoulder injuries in soccer players. Clin Cases Miner Bone
   Metab, 2012. 9(3): p. 138-41.
3) Barengo, N.C., et al., The impact of the FIFA 11+ training program on injury
   prevention in football players: a systematic review. Int J Environ Res Public Health,
   2014. 11(11): p. 11986-2000.
4) Longo, U.G., et al., The FIFA 11+ program is effective in preventing injuries in elite
   male basketball players: a cluster randomized controlled trial. Am J Sports Med,
   2012. 40(5): p. 996-1005.
5) Gatterer, H., et al., The "FIFA 11+" injury prevention program improves body
   stability in child (10 year old) soccer players. Biol Sport, 2018. 35(2): p. 153-158.
6) Ejnisman, B., et al., Shoulder injuries in soccer goalkeepers: review and development
   of a FIFA 11+ shoulder injury prevention program. Open Access J Sports Med,
   2016. 7: p. 75-80.

2021年09月06日掲載

PAGETOP