待機的心臓手術を受けた高齢患者の術前身体能力は院内転帰の予測因子である
Pre-operative physical performance as a predictor of in-hospital outcomes in older patients undergoing elective cardiac surgery. S. Baldasseroni, A. Pratesi, P. Stefàno, S. Del Pace, V. Campagnolo, A. C. Baroncini, et al. Eur J Intern Med 2021 Vol. 84 Pages 80-87
PubMed PMID:33144037
- No.2106_01
- 執筆担当：
順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科
森沢 知之 - 掲載：2021年6月11日
【論文の概要】
【背景】本研究は心臓外科患者のリスク層別化に用いられるSociety of Thoracic Surgeons（STS）スコアよりもShort Physical Performance Battery（SPPB）が短期予後の評価に優れているかを検証する。
【方法と結果】対象は待機的心臓手術を受けた75歳以上の235名。対象者をSTS-Predicted Risk Of Mortalityに基づき低・中・高リスクに分類した。術前SPPBはそれぞれ8.8±0.2、7.0±0.5、6.0±0.8であった(p <0.001)。主要アウトカム(院内死亡/合併症)は26.4％に生じ、低リスク群は術前SPPBが主要アウトカムを予測した(OR 0.77）。この結果は中・高リスク群では認められなかった。
【結論】術前SPPBは低リスクに分類される高齢心臓外科患者の死亡率と合併症罹患率を予測し、リスク層別化の改善に役立つ可能性がある。
【方法と結果】対象は待機的心臓手術を受けた75歳以上の235名。対象者をSTS-Predicted Risk Of Mortalityに基づき低・中・高リスクに分類した。術前SPPBはそれぞれ8.8±0.2、7.0±0.5、6.0±0.8であった(p <0.001)。主要アウトカム(院内死亡/合併症)は26.4％に生じ、低リスク群は術前SPPBが主要アウトカムを予測した(OR 0.77）。この結果は中・高リスク群では認められなかった。
【結論】術前SPPBは低リスクに分類される高齢心臓外科患者の死亡率と合併症罹患率を予測し、リスク層別化の改善に役立つ可能性がある。
【解説】
STSスコアは中高年の心臓外科術後のリスク評価として従来より用いられているが、認知機能、機能低下、サルコペニアなどの重要な項目が考慮されておらず、高齢患者では予測精度が高くないことも指摘されている。
SPPBは簡便に高齢者の身体機能が計測できる評価ツール1）として理学療法の臨床現場で多用されているほか、サルコペニア診断基準（AWGS 2019）にも用いられている2)。我々の多施設研究においても高齢心臓外科患者の術前SPPBが低い症例は術後リハビリテーションの回復が遅れる3）ことを報告し、術後の回復を予測するうえでSPPBを計測する臨床的意義は高いと考えている。
本研究の結果、術前SPPBは低リスク患者の短期予後の予測に優れていることが示され、術前から包括的な身体的パフォーマンステストであるSPPBを測定することは理学療法を行う上でも重要であることを示した論文である。本研究の対象は75歳以上の後期高齢者であり、今後、高齢患者が増加することを考えると重要なデータであると思われる。その一方、中・高リスク患者は重度の依存症を有していたり、健康状態が悪いため、従来のSTSリスク評価においても十分に予後予測が可能であり、SPPBを追加する必要性が乏しいことも述べられている。中・高リスクの患者にはさらなる身体機能の評価が必要かもしれない。
SPPBは簡便に高齢者の身体機能が計測できる評価ツール1）として理学療法の臨床現場で多用されているほか、サルコペニア診断基準（AWGS 2019）にも用いられている2)。我々の多施設研究においても高齢心臓外科患者の術前SPPBが低い症例は術後リハビリテーションの回復が遅れる3）ことを報告し、術後の回復を予測するうえでSPPBを計測する臨床的意義は高いと考えている。
本研究の結果、術前SPPBは低リスク患者の短期予後の予測に優れていることが示され、術前から包括的な身体的パフォーマンステストであるSPPBを測定することは理学療法を行う上でも重要であることを示した論文である。本研究の対象は75歳以上の後期高齢者であり、今後、高齢患者が増加することを考えると重要なデータであると思われる。その一方、中・高リスク患者は重度の依存症を有していたり、健康状態が悪いため、従来のSTSリスク評価においても十分に予後予測が可能であり、SPPBを追加する必要性が乏しいことも述べられている。中・高リスクの患者にはさらなる身体機能の評価が必要かもしれない。
【引用・参考文献】
1) Guralnik JM，et al: A short physical performance battery assessing lower extremity
function: association with self-reported disability and prediction of mortality and
nursing home admission. Journal of Gerontology Vol.49 No.2:M85-M94, 1994
2) L. K. Chen, et al: Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update
on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc 2020 Vol. 21 Issue
3 Pages 300-307 e2
3) Yuguchi S, et al: Impact of preoperative frailty on regaining walking ability in patients
after cardiac surgery: Multicenter cohort study in Japan. Arch Gerontol Geriatr
2019 Vol. 83 Pages 204-210
function: association with self-reported disability and prediction of mortality and
nursing home admission. Journal of Gerontology Vol.49 No.2:M85-M94, 1994
2) L. K. Chen, et al: Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update
on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc 2020 Vol. 21 Issue
3 Pages 300-307 e2
3) Yuguchi S, et al: Impact of preoperative frailty on regaining walking ability in patients
after cardiac surgery: Multicenter cohort study in Japan. Arch Gerontol Geriatr
2019 Vol. 83 Pages 204-210
2021年06月11日掲載
