理事長挨拶

日本理学療法学会連合 理事長 藤澤宏幸
理学療法は病者の苦しみを少しでも楽にしたいという想いから生まれた技術の集成であり、その根拠を求め、理論体系を整えるために学術研究が進められてきました。日本理学療法士協会(以下、協会)が1966年に誕生して半世紀を超える歴史には、職能団体としての”技術の集成”と裏付けとして”学術の探求”の歩みが刻まれています。
21世紀を迎え、4年制大学での教育が進むなかで理学療法に関する学術研究の発展は加速し、次のステップを進める準備が整ったといえます。その意味において、2021年は日本の理学療法を学術の側面から支えてきた者たちにとって、大きな節目の年となりました。今回の日本理学療法学会連合(以下、本会)の設立にこれまで学術活動に関わってきた多くの人々と喜びを分かち合いたいと思います。
【日本理学療法士協会における学術活動】
・1966年 日本理学療法士協会設立
・1966年 第1回日本理学療法士学会の開催
・1990年 日本学術会議協力学術研究団体として登録
・1997年 日本理学療法士協会学術局専門研究部会の設置
・1999年 世界理学療法連盟学会開催(横浜市)
・2013年 日本理学療法士協会内に日本理学療法士学会を設置(12分科学会、5部門)
・2015年 5部門が新たに設置され、12分科学会、10部門体制へ移行
・2017年 第52回日本理学療法士学会学術大会の開催(合同学術大会の終了)
・2021年 日本理学療法学会連合の設立(12法人学会、8研究会)
本会は12の法人格を有する学会(法人会員)と、将来的に発展が期待される8つの研究会(学術団体会員)から構成されています。また、本会の目的は、会員が相互に連携しながら、理学療法に関する知識の普及、学術文化の向上に関する事業を行い、医療及び社会福祉の充実に寄与することにあります。その目的を達成するために、7つの常設委員会と3つの特別委員会を置き、組織の安定的な運営を目指しています。
さて、あらためて専門職(profession)としての理学療法士を考えたとき、研究の重要性が浮き彫りになります。社会学において専門職に関する研究の先駆けとなったのは、Carr-SaundersとWilsonが著した“Professions”です。彼らは専門職を医師や法律家を代表として「長期の専門的なトレーニングを受け、コミュニティに対して特別なサービスを提供できる技術を獲得している職業」と定義しました。以降、多くの議論がなされるなかで、前述した定義とも重なりますが、主たる条件として以下のものがあげられてきました。すなわち、長期の訓練・教育を通し高度に体系化・理論化された知識・技術を身につけていること、国家または団体による資格認定が必要、職業集団自体の組織化と組織維持のため、成員には一定の行為準則が必要、愛他的動機にしたがって公共の利益を目的とすること、高度な知識・技術を占有し、高度な自律性(autonomy)や社会的権限が付与されていること、の4点です。あきらかに専門職としては、高度な学問体系とそれを支える研究活動が大切であることが理解できます。
一方で、20世紀半ばのアメリカ合衆国で生じた専門職批判にみられるように、国民は本当に自分たちを大切にしてくれている専門職を肌で感じとれます。理学療法士が次の時代にも必要とされる専門職であり続けるためにも、人間学としての理学療法のあり方を忘れてはなりません。すなわち、理学療法が人と人とのつながりの中で展開される治療法であり、対象者の生活や行為を視野に入れて実践されるべきものであるということです。その意味で、今後、社会学や経済学などの学際領域にも幅を広げる必要があるかもしれません身体を生物学的側面と社会的側面の両面から捉え、学問としての体系化を会員の力をあわせて進めてゆきたいと願っています。